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kiss
第3章 lip
お気に入りの帽子を被り、駅から近くの公園で待つ。
子どもは滅多に来ない。
僕は錆びた遊具を眺めて、ベンチに座った。
五分前。
良かった。
風が吹く。
春が去り、湿り気を帯びてきた。
もうすぐ梅雨。
外出が少ない、好きな季節。
時計を見る。
「あの、浅宮さんですか」
あれ。
僕は低い声に眉をしかめた。
まさか、クラスメートの嫌がらせだったのか。
顔を上げる。
誰だ、コイツ。
茶髪にピアス。
薄い眉毛。
大きめのボーダーの上着。
スニーカーはまともだ。
一言で言うと、気が良さそうな不良。
僕は何も言わずに首を傾げた。
「あの、昨日はメールありがとうございます!」
「……あなたが?」
「はい! シックな服も似合ってますね楓さん」
楓さん。
その響きに全てを悟る。
愕然とした。
コイツは、僕の影の女性に話しかけている。
見かけた時、どんな服を着ていたんだろうか。
少なくとも、制服じゃなかった。
「……楓さん?」
「残念ですが」
目一杯低い声を出す。
「僕は男だ 」
相手が固まる。
目線が泳ぎ、耳の後ろを気まずそうに掻く。
「楓なんて名前で悪かったな。今度からラブレターには性別を明記した方がいい」
立ち上がった僕の腕を掴む。
そして、そっと帽子に触れた。
日差しに目を細める。
「そうだよ……この顔」
相手が囁くように言う。
「返してよ」
「俺は井原翔だ。女と間違えて本当に悪かった。でも俺、やっぱりあんたが好きだ」
足が竦む。
こいつは、何を言っているんだ。
知らない。
こんな反応知らない。
俯いて、腕を振る。
「離せっ」
顔は見たくない。
見られたくない。
こんな奴、人生になんか必要ない。
ガッと腕を引かれ、胸元に包み込まれる。
一瞬で抱き締められてしまった。
ギュウッと力がこもり、身じろぐ。
「あっ、ごめん。つい」
「……つい、なんだよ。僕は正常な性癖だ。女々しいホモでも探したければニューハーフパブでも行けよ」
突き放して、腕が届かない位置に下がる。
翔は、悲しそうに両手を降ろした。
「俺も正常だよ。でも、お前を見てから本当に一目惚れしたんだ。そばにいたいんだ」
ソバニイタイ?
僕はゆっくり耳を塞いだ。
「うそつき」
そして駆け出した。
子どもは滅多に来ない。
僕は錆びた遊具を眺めて、ベンチに座った。
五分前。
良かった。
風が吹く。
春が去り、湿り気を帯びてきた。
もうすぐ梅雨。
外出が少ない、好きな季節。
時計を見る。
「あの、浅宮さんですか」
あれ。
僕は低い声に眉をしかめた。
まさか、クラスメートの嫌がらせだったのか。
顔を上げる。
誰だ、コイツ。
茶髪にピアス。
薄い眉毛。
大きめのボーダーの上着。
スニーカーはまともだ。
一言で言うと、気が良さそうな不良。
僕は何も言わずに首を傾げた。
「あの、昨日はメールありがとうございます!」
「……あなたが?」
「はい! シックな服も似合ってますね楓さん」
楓さん。
その響きに全てを悟る。
愕然とした。
コイツは、僕の影の女性に話しかけている。
見かけた時、どんな服を着ていたんだろうか。
少なくとも、制服じゃなかった。
「……楓さん?」
「残念ですが」
目一杯低い声を出す。
「僕は男だ 」
相手が固まる。
目線が泳ぎ、耳の後ろを気まずそうに掻く。
「楓なんて名前で悪かったな。今度からラブレターには性別を明記した方がいい」
立ち上がった僕の腕を掴む。
そして、そっと帽子に触れた。
日差しに目を細める。
「そうだよ……この顔」
相手が囁くように言う。
「返してよ」
「俺は井原翔だ。女と間違えて本当に悪かった。でも俺、やっぱりあんたが好きだ」
足が竦む。
こいつは、何を言っているんだ。
知らない。
こんな反応知らない。
俯いて、腕を振る。
「離せっ」
顔は見たくない。
見られたくない。
こんな奴、人生になんか必要ない。
ガッと腕を引かれ、胸元に包み込まれる。
一瞬で抱き締められてしまった。
ギュウッと力がこもり、身じろぐ。
「あっ、ごめん。つい」
「……つい、なんだよ。僕は正常な性癖だ。女々しいホモでも探したければニューハーフパブでも行けよ」
突き放して、腕が届かない位置に下がる。
翔は、悲しそうに両手を降ろした。
「俺も正常だよ。でも、お前を見てから本当に一目惚れしたんだ。そばにいたいんだ」
ソバニイタイ?
僕はゆっくり耳を塞いだ。
「うそつき」
そして駆け出した。