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kiss
第4章 ★rouge
授業なんてなければいいのに。
私の席は、舞よりずっと後ろ。
名簿なんて下らないルールのせいで、彼女の背中を見るだけ。
女子校だから、男子と話す危険はないけど。
ねぇ、舞。
そんなに楽しそうに何を話しているの。
こそこそと。
先生にバレないようにと。
ヒミツゴト。
相手は私じゃないのに。
クスクス笑い合って。
パキッ。
シャー芯が折れた。
ノートの上には歪な点。
消しゴムでも消えにくい、痕になる。
舞。
早くチャイムが鳴ればいい。
舞。
そしたらそばに行ける。
「ちょっと待ってて」
この言葉にいつも傷つく。
隣の子と問題の答えを確かめる舞。
私よりも、その子を優先。
黒髪を梳きながら、何でもない風に待つ。
ちょっと、が随分長い。
上履きで床を擦る。
ねえ、まだ?
真剣に計算して、笑う。
「合ってた? 良かったね」
それ。
私が云いたい台詞。
あなたが取らないでよ。
「うんっ。友美、おまたせ」
「全然」
人って、一番好きな人に一番沢山嘘を吐くんでしょう。
最近本当にそう思うの。
「もうすぐテストなのに、勉強ヤバいよー……」
伏せ目がちにつぶやく。
可愛い。
抱き締めたくなる。
ギュッと。
「勉強会、する?」
「友美の部屋で? いいの?」
「いいよ」
「やった!」
ほら。
舞は、私の前での方が喜んでる。
一番の顔を見られるのは、私。
これまでも、これからも。
放課後、家に着く。
鍵を開けて、そっと舞の腕を引く。
「お母さん、友達来たから」
居間から足音が近づく。
来なくていいのに。
「あら、舞ちゃん。いらっしゃい」
「どうも、おじゃまします」
舞も丁寧にしなくていいのに。
頭下げて、申し訳なさそうに。
「あとでお菓子持ってくるわね。向かいの叔父さんから貰ったマフィンのセットがあるの」
「……ありがと」
半ば強引に舞の手を引いて、階段を上がる。
バタン。
自分の部屋に入り、息を吐く。
安心する。
ここは私の世界。
舞しか入れない、私の世界。
「やっぱり友美の部屋って綺麗…」
「ポスターばっかでごめん」
「KAGURAさんでしょ」
バックを下ろし、ベッドに腰掛ける舞。
いつも寝ているベッドに。
知らず知らずに動悸がする。