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kiss
第4章 ★rouge

 隣に座りたい。
 でも、不審がられるよね。
 髪を耳にかけて、テーブルに勉強道具を広げる。
 二人分。
 舞はぼーっと足をぶらぶらさせて、ポスターを眺めている。
 その顔を盗み見ながら、緩む頬を隠した。
 「今日はなにやる?」
 「ん……数学かな」
 ペタリとカーペットに座る。
 ベッドにもたれながら、教科書を睨む。
 「ここの微分とグラフが難しくて」
 「どれ?」
 身を乗り出して、問題を見る。
 「増減表まで書けたら、あとは最大値と最小値を記入して、形はここから出せるから……」
 舞も頭を寄せる。
 びくっと今の体勢に反応してしまった。
 私の目の前に舞の顔。
 睫毛が数えられるくらい近い。
 呼吸が聞こえる。
 「あっ。わかった、解けるかも」
 舞が笑って顔を上げる。
 「あれ? 友美顔赤いよ」
 「気のせい」
 両手で押さえると、確かに熱い。
 こんな密室に二人で、こんなに近いんだから、当然か。
 コンコン。
 「マフィンよ」
 「……はーい」
 扉口で受け取る。
 キャラメルとチョコの甘い香りが部屋を満たす。
 「かーわいい!」
 舞が声を上げた。
 ソースが花の形になっていて、色も鮮やか。
 私も見惚れてしまった。
 「これ食べるのもったいないね」
 「ねー」
 それでも舞は、ヒョイとつまんで半分に割った。
 中からトロリとジャムが現れる。
 お母さん、温めてくれたんだ。
 「おいしー」
 「舞、口の端に付いてる」
 「ん。恥ずかしい」
 ぺろっと舐め上げた舌を目で追う。
 ピンクで、小さな舌。
 口が渇く。
 危ない。
 長く見つめすぎた。
 脚を摺り合わせる。
 濡れてきた。
 「ねぇ、これで合ってるかな?」
 ノートを渡されても、熱が止まらない。
 この小さな顔が快感に乱れるとどうなるんだろう。
 真っ赤にして。
 「合ってるよ」
 「やたっ。次いこう」
 「いこう……」
 こんな言葉一つに反応してしまう。
 真面目に勉強しているだけなのに。
 チラチラと、舞を見てしまう。
 「三十二になって……これが」
 前髪が揺れる。
 ペンを当てて悩む唇に触れたい。
 遠慮がちに閉じた脚を撫でたい。
 セーラーを引き裂いて、胸元にキスがしたい。
 「友美ー。友美ーっ」
 「え? なに」
 「だから、化学にしようって」
 「あ。うん」
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