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kiss
第5章 touch
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巧が笑いもせずに続ける。
「戻ったら死ぬんやろ。オレ金ないし、家もない。なぁ、ええやろ? それに、声かけたんは救ってくれるからやないんか」
救ってくれるから?
そうなのか。
俺はこの青年を救いたいのか。
わざわざ命を晒してまで。
「悪いが、俺も家はないんだ」
「金はあるんやな」
揚げ足を取るのが上手い。
短い沈黙。
どちらでも良かった。
一人で逃げるのも。
二人で逃げるのも。
「とりあえず県外に行くぞ」
巧は力強く頷いた。
高速を通るのは気が引ける。
かといって下を走ればいつになることか。
悩みながらハンドルを切る。
「オレの他にもな、鵜亥さんのお気に入りはおるんや」
「なら、一人逃げても大丈夫か?」
「そういう意味やない。オレのせいであの三人……」
拳を握る。
「友達か?」
「……一応な」
右折をして、暗い道に入る。
この辺は地元民はあまり使わない。
最近出来た、裏道。
「あとで助けに来ればいい」
「あとって?」
「マフィアのトップにでもなって、鵜亥なんて眉一つ動かさずに撃てるようになってからだ」
「むちゃくちゃや」
「そのくらいの意気でいろ」
巧が窓にもたれる。
流れる景色をどういう気持ちで見ているのか。
「あんな、久しぶりなん」
「なにが」
「助手席」
カタコトに呟く。
その表情は暗い。
「いつもな、後ろで手錠付けて……こう、縛られて」
ジェスチャーをするが、すぐにやめた。
「鵜亥さんは、いつでもオレをそばに置きたがってな」
それ以上は話したくないのか。
巧は目を瞑った。
まだ安息は遠い。
俺は道路の向こうに止まる車に鳥肌が立った。
「来たで」
「あんの運び屋」
鵜亥は、黙ってヘッドライトを眺める。
逃げ切れる気だろうか。
あのフランという男。
「撃ってええの?」
「はよはよ」
それを手で制する。
不満が渦巻く。
全く、血の気が多い連中だ。
「鵜亥さんっ」
「汐野、タイヤ狙え」
声を掛けた人物が億劫そうに立ち上がる。
飲んでいたビールの缶を潰して。
「タイヤっすか」
銃口を近づいてくる車に向ける。
「タイヤだ」
ふっと笑って引き金を引いた。
銃声は響かない。
その代わり、車が大きくスリップした。
「サイレンサーやで」
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