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kiss
第5章 touch
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衝撃の後に意識がもっていかれる。
必死で歯を食いしばり、ハンドルを操作するが、林に突っ込んだ。
タイヤは二重だから、パンクはしていないだろう。
あの距離から命中されるとは思わなかった。
ガッ。
木にぶつかる。
巧はずっと叫んでいた。
場慣れもしてないガキ。
怖いに決まっている。
人影が近づいてくる。
だが、まだ遠い。
エンジンを掛ける。
いくか。
いけ。
「もうあかんってー……」
「泣くな、煩い」
「泣いてへんわ!」
「喚くな、煩い」
「煩いのはお前やっ!」
こんな所で漫才している場合ではない。
ギキッ。
嫌な音の割に、車は息を吹き返す。
人影が止まった。
そして、銃を構えた。
二度目を許す訳がない。
全速で発進する。
男達が散った。
頭が痛い。
触ると血が付いた。
気にしていられない。
ライトに照らされた黒髪の男。
にっと笑う鵜亥。
「さよなら」
そう口が動き、窓ガラスを弾が貫いた。
血が吹き飛ぶ。
自分じゃない。
助手席を狙ったんだ。
頭が真っ白になる。
そちらを見るのが怖い。
急いでハンドルを切り、離れる。
追っ手はない。
「巧!」
すぐに手を伸ばす。
返事はない。
山中に車を止め、ライトを点ける。
「たく……」
耳の上から流れる血を押さえ、小さく呻く。
良かった。
背もたれに大きな穴が空いていた。
数センチ。
奇跡みたいなものだ。
「ふ……ふふ」
嗤いが洩れる。
「見たやろ? 鵜亥さん、躊躇いなくオレ撃ちよった……はははは」
ポロポロと泣きながら。
「ほんまやったんや。あの人……最低な男なんやね」
わあっと泣き喚く。
耳につんざく。
でも、耳障りじゃない。
「これからどうする?」
啜り泣く。
「もう追われはしない。鵜亥はお前が死んだと思ってる」
「……イヤやね、嘘は」
「嘘じゃない」
「じゃあ、オレは死人か」
「不満か?」
巧の動きが止まる。
ゆっくりと俺を見る。
「俺も同じようなもんだ」
「せやねー……そんなに悪くはないかもしれん」
山を抜ける。
「生きててなんぼやしね」
巧の言葉が脳に何度も響いた。
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