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kiss
第6章 ignorant
翌朝、ぼくらの畳間に大きなお腹の秋倉おじさんがノシノシ入って来た。
髪も服も完璧に用意していた朋を見て、満足そうに笑う。
「お前はいつも美しい」
あ。
またチクンて。
秋倉おじさんがそう言う度に胸が痛くなるんだ。
ヤキモチとかじゃなくて。
なんか、痛い。
それからおじさんは朋にキスをして連れて行く。
初めは嫌だった。
キスなんてママとしかしたことないし、ママはほっぺにする。
なのに、おじさんは口にヌメッてしてくるんだ。
ぼくはギュッて目を瞑んなきゃ出来ないのに、朋はしっかり顔を上げて、おじさんの言うとおりに舌を出すの。
信じらんない。
あんなに気持ち悪いのに。
なんでって訊いたら、そうしたらおじさんが喜ぶって。
じゃ、なんで喜ばせたいの。
美しいって言って欲しいの。
最近、いや、ここに来てから段々朋が何を考えているかわかんなくなる。
大好きなのに。
前みたいに遊べないし。
二人で食事の時も喋っちゃいけないの。
つまんない。
朋とはいつでも一緒に遊んでいたいのに。
「お前は踊りを練習してろ」
ピシャンて。
秋倉おじさんが襖を閉めた。
踊り?
もう寝てたって出来る。
ぼくはこっそり二人の後を追いかけた。
館の奥にある、でっかい障子。
いつも締め切っているの。
探検で行ったけど、重すぎて開かなかった。
今日は違う。
二人が前で止まると、パッと開いたんだ。
ぼくは口に手を当てて、声が聞こえないようにしなきゃいけなかった。
嘘みたい。
あの巨大な障子がパッカリ開いている。
中は蝋燭だけが灯っているみたい。
ぼくはそろそろと隣の間に忍び込んだ。
ガランとしてる。
畳が冷たい。
そうだった。
ここは蓮の間。
入っちゃいけない部屋。
それでもぼくは隅にゆっくり這い、朋達が入って行った部屋の障子を見つめた。
それから人差し指で小さな穴を開けた。
これで中が見える。
二人と、五人くらいの大人の男の人たち。
なにするんだろう。
「……秋倉おじさん、あげたいものってなんですか」
朋が行儀よく尋ねる。
「まぁまぁ、これでも飲みなさい」
逆らわない。
さかずきを受け取り、ゆっくりと飲み干す。
ガラン。
それは手から零れるように落ちた。
朋の指が震えている。