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kiss
第6章 ignorant
「だれ?」
彼は着物じゃなくて、薄いシャツ一枚だった。
裾を掴んで伸ばしてるけど、丸見えの太ももが濡れている。
見ちゃいけない気がした。
「ボクに名前なんてない。だってボクは人形だから。おじさんはね、飽きた人形は人にあげちゃうの。スッゴク怖い人にね。友達もあげられちゃった。だからボクらはおじさんに逆らったり飽きられたりしないようにしなきゃダメ」
キミはなにを言ってるの。
「あれはね」
朋のいる部屋を指差す。
暗闇なのにはっきり見える。
「おじさんに気に入られるためのテストなんだよ。テストじゃ良い点とらなきゃいけないでしょ。もっともっと声を上げて、もっと楽しまなくちゃ」
やめてよ。
そんな…
そんな顔で言わないで。
違う。
朋はテストなんてしてない。
キミとは違う。
「朋はキミとは…」
「雛?」
あ。
世界が遠ざかる。
「なんでそこにいるんだ」
「お……じさ」
大きな手が招く。
暗がりに。
「おいで」
足音が奥に消える。
さっきの子は行っちゃった。
おじさんはぼくに言ってるんだ。
おいで。
「雛は来月の予定だったんだがな。双子はやはり一緒がいいか」
「と……朋は」
「邪魔しちゃいけないよ」
いけない。
ダメ。
ここはそればかり。
ああ。
菊の間では影が踊る。
無様に。
歪で汚い音を立てて。
「ぼくは……」
「こっちに来なさい」
ぼくは違う。
ぼくはわかってたんだもの。
違うんだ。
「ぼくは朋とは違う」