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kiss
第6章 ignorant

 ずっと二人でいようね。


 背中が痛い。
 畳に押しつけられてたから。
 足も痛い。
 上げられたまま固定されてたから。
 お尻は凄く痛い。
 堪えらんないくらい。
 目を擦ると涙以外に変なのが手に付く。
 顔だけじゃないや。
 肩にも。
 腋にも。
 お腹にも。
 起き上がろうとして、そのまま背中を強打する。
 あれ。
 立てないや。
「起きたか」
 首だけ回して秋倉おじさんを見上げる。
「……あ」
「まだ喋れないだろ。強い薬だったからな」
 薬?
 なんの話?
 ボクはなんとか部屋を見回す。
 いつもの部屋を。
 菊の間から帰ってきたんだ。
 じゃあ、なんで…
「雛のことか」
 おじさんが煙草を吸いながらしゃがむ。

「あいつは遠くに行ったよ」

 今、なんて。
 雛。
 なんでいないの。
 どこに行ったの。
「怪我が治るまで寝ていろ……ったくあいつら無茶しやがって」
 動けたら…
 今すぐ飛び出すのに。
「おじ…さ、ん」
 出ていこうとした秋倉おじさんが立ち止まる。
「さ……よ、なら」
 にっと笑ったボクにおじさんは笑いかえさなかった。
「お前はもう逃げられんよ。気づくのが遅すぎた」

 パタン。
 障子が閉まってから、ぼろぼろ涙が溢れてくる…
 雛。
 雛。
 会いたい。
 今すぐ会いたい。
 止まらずに流れる。
 悪かったよ。
 ボクが馬鹿だった。
 雛はあんなに怖がってたのに。
 あんなに警告したのに。
 ボクは兄失格だな。
 恥ずかしいなんてもんじゃない。
 舌でもかみちぎりたい。
 でも、まだ。
 痛みが落ち着いてから身を起こす。
 まだ死ねない。
「ひ……な」
 布団に足をとられて転ぶ。
 一瞬息が止まった。
 いたくない。
 大丈夫。
「ひ、な」
 探さなきゃ。
 見つけなきゃ。
 ポタッ。
 濡れた着物に腕だけ通す。
「ひなー」
 探さなきゃ。
 見つけ、なきゃ。
 だってまだ鬼はボクだから。
 まだ隠れてる雛を見つけてないから。
 ポタッ。
 涙がどんどん垂れる。
 苦しいよ。
 雛。
 二人でいようねって雛が言ったんだよ。
 どんなにここが怖くったって二人でいたら最強だねって。
 雛が言ったんだよ?
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