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kiss
第9章 finger
 そう云って衣服を全部脱いだ帯乃が、白い湯気の立つ浴室に入っていく。
 無駄のない後ろ姿に鳥肌が立った。
 流れる髪も、足の先までも。
 スタジオで見た背中がフラッシュバックする。
 汗が伝ううなじ。
 あの信じられない輝かしい時間を思い返す。
 それから今も信じられない時間だなと改めて思った。
 つーっと帯乃がガラスに指を伝いながら、こちらに歩いてくる。
 脱衣室と浴室の敷居もガラスなのだ。
 エロい構造……
 ついそう感じてしまった自分を恥じる。
 コンコン。
 ガラス越しに帯乃が口パクで言う。
「おいで」
 急いで服を脱ぎ捨てた。

 ピチャン。
 浴槽に注がれた湯。
 なんで窓は曇ってないんだろう。
 シャワーを浴びながら眺めていると、先に浴槽に浸かっていた帯乃が心を読んだように答えた。
「夜景見たさに構えたバスルームだからね。撥水性なの。最先端なんとかとか」
「なるほど」
 石鹸を洗い流してタヤも湯に入る。
 大の男が二人入っても余裕ありすぎる広さだ。
「あはははっ」
「えっ、なんですか」
 浴室だからか声がよく響く。
 帯乃は縁に腕を掛けてタヤを見つめた。
「髪濡れるとそうなるんだね。ますます少年て感じ」
「そうですか? まあいつも結構立ててますから」
 ちょっと気にしたように髪を弄り出すタヤ。
 可愛いなあ。
 なんだろう。
 この小動物みたいな空気。
 普通出せないよ?
 帯乃は髪を掻き上げながらしみじみタヤを観察する。
「帯乃さん……オールバック似合いますね」
「そう?」
「SEX HEAVENのPVで、銀髪のオールバックだったじゃないですか。あれ本当に憧れですよ、似合うの帯乃さんくらいでしょうけど」
「ああ、懐かしい。確かロスで撮ったんだっけ……現地のメイクさんが色つけてくれたんだよね」
 パチャンと手で湯を跳ねる。
「タヤちゃんもやってみれば?」
「俺は良いですよ」
「ちょっとこっち来て」
 半ば無理矢理タヤを引き寄せて前に座らせる。
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