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私を見て
第3章 宮殿
あの暑い夏の日。
3年女子の創作ダンスはチアリーディングで。
応援団だった私は更衣室が開くのを待つ余裕が無かった。
生徒は体育祭の真っ只中、誰も校舎に居ないと思ってた。
私は何の疑問もなく、自分の机で着替えた。
このあとは応援合戦、気合いも入れなきゃいけない。
水分も取りに行きたい。いやトイレも時間があれば行きたい。
気持ちは焦っていたんだ。
ワンピースタイプのみんなでお揃いの衣装の背中のファスナーが突然、途中で止まった。
それはブラジャーのホックの辺り。
最近胸が苦しいから、ホックをずらしていて、タイミング悪くファスナーに噛んでいた。
それは背中の見えない私にわからない話で。
わからない私はバタバタしていた。
そう、あの日。
そのファスナーを下ろしたのは‥‥‥
ジタバタした私が人の気配に気付いたのは触れられてからだった。
背中から現れた手のひらに口を塞がれて叫ぶことも出来なくて。
背中には誰かの体温があって。
頭のすぐ後ろに相手の顔があることが気配でわかった。
いや、すぐ後ろではなくて耳の後ろだったんだ。
「ファスナー下ろすだけだから、叫ばないで」
それは、小さな囁き声で。
耳に直接囁いた口が、下がってく。
衣装からはだけた肩に唇が押し付けられたのはどのくらいだろう。
行き場を無くした私の手がチアの衣装を強く握り締めていて、指がほどけなくなる位で。
いつのまにかファスナーが降りていて。
さらに言うならブラジャーのホックも外されていて。
私を解放した彼は。
堂々と後ろのドアからではなく前の廊下から出て行ったんだ、なんでもないかのように。