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真珠浪漫物語
第13章 茶碗の中の嵐

叶男爵家は品川の海が見える小高い丘に建った豪奢な邸宅である。
別名「品川御殿」とも呼ばれているそれは、有数の鉄道を所有している資産家の叶男爵が邸宅にも贅を凝らした結果である。
政界財界にも顔が効く叶男爵は夫人もまた大変な人脈を持っている。
お茶会が盛会なのはそのためだ。
今回もお茶会というにはあまりに盛大な規模の催しらしい。
聞けば縣男爵も招待されているとのこと…。
…と、メルセデスの中で月城は詳細に説明をしたのだが、綾香は梨央の化粧を直すのに夢中で生返事ばかりしている。
月城は眉をひそめ、慇懃に尋ねる。
「綾香様、お分かりになりましたか?」
「はいはい、わかったわかった」
「…くれぐれもお言葉遣いにはお気を付け下さい。うるさ型のご夫人が沢山招かれていらっしゃるのですから…」
「はいはい、わかったわかった…梨央、もう大丈夫よ。綺麗になったから」
「ありがとうございます。お姉様…」
二人のやり取りに首をかしげる月城。
「…?梨央様…お化粧をしていらっしゃらなかったのですか?」
月城が助手席から振り向くと、梨央が不意に頬を染めて俯く。
綾香が取りなす。
「…まあいいじゃない。…あ、あれが品川御殿?…すご…!」
目の前に煉瓦造りの豪奢な邸宅が広がっていた。
小さな塔まで構えるそれはさながらヨーロッパの城のようだ。
メルセデスは正面玄関の車寄せに滑り込んだ。
車を降りる前に、梨央が綾香の手をぎゅっと握りしめる。
不安げな眼差しをして綾香を見るのに
「…大丈夫。私が側にいるから…」
と笑いかける。
梨央はぎこちなく笑い返す。
叶家の下僕により、車のドアが開けられる。
綾香、梨央の順で石畳に降り立つ。
正面玄関には叶男爵夫妻を筆頭に令嬢、子息がずらりと並び、次々に訪れる来賓を出迎えようとしている。
綾香の後ろから、月城がそっと声をかける。
「…綾香様…くれぐれもお言葉遣いを…」
「わかってるってば。…さあ梨央」
綾香は梨央に優しく手を差し伸べる。
梨央は子供のように綾香の手をぎゅっと握りしめる。
綾香と梨央は並んで叶男爵一家の前に歩み出した。
別名「品川御殿」とも呼ばれているそれは、有数の鉄道を所有している資産家の叶男爵が邸宅にも贅を凝らした結果である。
政界財界にも顔が効く叶男爵は夫人もまた大変な人脈を持っている。
お茶会が盛会なのはそのためだ。
今回もお茶会というにはあまりに盛大な規模の催しらしい。
聞けば縣男爵も招待されているとのこと…。
…と、メルセデスの中で月城は詳細に説明をしたのだが、綾香は梨央の化粧を直すのに夢中で生返事ばかりしている。
月城は眉をひそめ、慇懃に尋ねる。
「綾香様、お分かりになりましたか?」
「はいはい、わかったわかった」
「…くれぐれもお言葉遣いにはお気を付け下さい。うるさ型のご夫人が沢山招かれていらっしゃるのですから…」
「はいはい、わかったわかった…梨央、もう大丈夫よ。綺麗になったから」
「ありがとうございます。お姉様…」
二人のやり取りに首をかしげる月城。
「…?梨央様…お化粧をしていらっしゃらなかったのですか?」
月城が助手席から振り向くと、梨央が不意に頬を染めて俯く。
綾香が取りなす。
「…まあいいじゃない。…あ、あれが品川御殿?…すご…!」
目の前に煉瓦造りの豪奢な邸宅が広がっていた。
小さな塔まで構えるそれはさながらヨーロッパの城のようだ。
メルセデスは正面玄関の車寄せに滑り込んだ。
車を降りる前に、梨央が綾香の手をぎゅっと握りしめる。
不安げな眼差しをして綾香を見るのに
「…大丈夫。私が側にいるから…」
と笑いかける。
梨央はぎこちなく笑い返す。
叶家の下僕により、車のドアが開けられる。
綾香、梨央の順で石畳に降り立つ。
正面玄関には叶男爵夫妻を筆頭に令嬢、子息がずらりと並び、次々に訪れる来賓を出迎えようとしている。
綾香の後ろから、月城がそっと声をかける。
「…綾香様…くれぐれもお言葉遣いを…」
「わかってるってば。…さあ梨央」
綾香は梨央に優しく手を差し伸べる。
梨央は子供のように綾香の手をぎゅっと握りしめる。
綾香と梨央は並んで叶男爵一家の前に歩み出した。

