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真珠浪漫物語
第13章 茶碗の中の嵐

綾香が梨央の手を握り、
「…梨央。ありがとう…もういいのよ…」
と優しく囁いた。
恥ずかしがり屋ゆえ、滅多に表に出てこない梨央がこれだけ盛大なお茶会に参加しているだけでも驚きなのに、若い令嬢達の中でリーダーシップを握っている白峰華子に反論するとは…!
と、列席の紳士淑女は驚きの声をあげた。
それはほぼ、梨央への賛美の声だったので、華子は唇を歪めた。
そして矛先を綾香に変えることにした。
「…まあ…なんて麗しい姉妹愛だこと…。…綾香さん、貴方…北白川のお屋敷に来られる前は歌手をしていらしたそうね?…しかも、浅草オペラの歌手を」
浅草オペラと聞き、さすがに騒めく広間。
その反応に気を良くした華子は扇をひらひらと揺らしながら続ける。
「…私の慶応の男友達が、冷やかしで場末の浅草カフェを覗いたら、綾香さんがステージで歌われていたそうよ。肌も露わなドレスで、酔客に囲まれながら…」
華子は綾香に近づきながら、猫撫で声で聞く。
「ねえ、綾香さん。ああいうお店ではお客の夜のお相手もするって伺ったけど…本当なのかしら?…まさかねえ…そんな娼婦みたいなこと…」
梨央が涙声で訴える。
「華子さん…!どうしてそんなひどいことを…!お姉様は素晴らしい歌手なのよ…?」
綾香は落ち着いて梨央の手を握りしめ、宥める。
そして、優雅な所作で目の前のワイングラスのワインを一気に飲み干し、背後の下僕を呼ぶ。
「…ビールをいただけるかしら?」
戸惑う下僕。
「は…ビール…ですか」
綾香は朗らかに笑う。
「こんな上品なお茶会にビールなんて労働者階級のお酒はないよね…暑い夏に冷えたビール!…最高なんだけどなあ〜」
騒めく来賓たち。
綾香はうっとりするような魅惑的な微笑を華子に向ける。
そして…
「…あんたさあ、さっきから黙って聞いていりゃあ、下らない与太話ばかり繰り返しやがって。余りにバカバカしくて眠くなっちまったよ。貴族のお嬢様って本当に何の芸もないんだねえ」
ギョッとする華子。
「…な、なんですって?」
にやりと笑う綾香。
「あんたの慶応ボーイ、知ってるよ。私の大ファンでさ。私に会いに毎週通って来てたから。…気位ばっかり高い我儘なお嬢様のご機嫌取りに疲れたらここに来るんだって零してた。…あんたのことだったんだねえ。納得だよ」
華子は真っ赤になって叫んだ。
「な、な、何を言っているのよ!」
「…梨央。ありがとう…もういいのよ…」
と優しく囁いた。
恥ずかしがり屋ゆえ、滅多に表に出てこない梨央がこれだけ盛大なお茶会に参加しているだけでも驚きなのに、若い令嬢達の中でリーダーシップを握っている白峰華子に反論するとは…!
と、列席の紳士淑女は驚きの声をあげた。
それはほぼ、梨央への賛美の声だったので、華子は唇を歪めた。
そして矛先を綾香に変えることにした。
「…まあ…なんて麗しい姉妹愛だこと…。…綾香さん、貴方…北白川のお屋敷に来られる前は歌手をしていらしたそうね?…しかも、浅草オペラの歌手を」
浅草オペラと聞き、さすがに騒めく広間。
その反応に気を良くした華子は扇をひらひらと揺らしながら続ける。
「…私の慶応の男友達が、冷やかしで場末の浅草カフェを覗いたら、綾香さんがステージで歌われていたそうよ。肌も露わなドレスで、酔客に囲まれながら…」
華子は綾香に近づきながら、猫撫で声で聞く。
「ねえ、綾香さん。ああいうお店ではお客の夜のお相手もするって伺ったけど…本当なのかしら?…まさかねえ…そんな娼婦みたいなこと…」
梨央が涙声で訴える。
「華子さん…!どうしてそんなひどいことを…!お姉様は素晴らしい歌手なのよ…?」
綾香は落ち着いて梨央の手を握りしめ、宥める。
そして、優雅な所作で目の前のワイングラスのワインを一気に飲み干し、背後の下僕を呼ぶ。
「…ビールをいただけるかしら?」
戸惑う下僕。
「は…ビール…ですか」
綾香は朗らかに笑う。
「こんな上品なお茶会にビールなんて労働者階級のお酒はないよね…暑い夏に冷えたビール!…最高なんだけどなあ〜」
騒めく来賓たち。
綾香はうっとりするような魅惑的な微笑を華子に向ける。
そして…
「…あんたさあ、さっきから黙って聞いていりゃあ、下らない与太話ばかり繰り返しやがって。余りにバカバカしくて眠くなっちまったよ。貴族のお嬢様って本当に何の芸もないんだねえ」
ギョッとする華子。
「…な、なんですって?」
にやりと笑う綾香。
「あんたの慶応ボーイ、知ってるよ。私の大ファンでさ。私に会いに毎週通って来てたから。…気位ばっかり高い我儘なお嬢様のご機嫌取りに疲れたらここに来るんだって零してた。…あんたのことだったんだねえ。納得だよ」
華子は真っ赤になって叫んだ。
「な、な、何を言っているのよ!」

