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真珠浪漫物語
第13章 茶碗の中の嵐

竹子は叶夫人に勧められた主賓席に座り、綾香の歌声には耳を澄ませる。
「…やはり朱音の声によく似ている。でも歌唱力は朱音以上…いえ…そんな生易しいものではないわ…この子の才能は…計り知れないものがある…」
笑顔の中にも鋭い眼光で綾香を見つめていた。
隣の席の縣は
「…信じますよ。ゴッドマザーには才能を見抜く力がおありだから」
とそっと囁いた。
竹子はフッと笑い、縣を軽く睨む。
「年寄りを揶揄うもんじゃないよ。…ところで…梨央との婚約は解消したそうね?」
縣は苦笑する。
「人の痛い所を突くのは本当にお上手だ。…ええ、美しき薔薇姫をお護りする騎士に戻ったのですよ。…でも…これで良かったのです…」
「…そう…。貴方は良い人ね。そしてとても魅力的」
「ありがとうございます…。竹子様にそう言っていただけると、何だか報われます」
竹子は縣の手を可愛い孫にするように優しく撫でた。
広間はリサイタルのような様相を呈してきた。
皆、綾香の歌にすっかり魅了されている。
「…最後に、アヴェ・マリアを歌わせてください。…今日は私の亡くなった母を知る竹子様に思いがけない嬉しいお話を聞かせていただきました。…母はクリスチャンでした。母の葬式の時に教会で私はアヴェ・マリアを歌いました。あの日は…悲しくて辛かった。…でも今は…とても幸せな気持ちでアヴェ・マリアを歌いたいのです。…クラシックの歌唱練習はしたことがありません。全て自己流です。お聴き苦しい点もあるかと思いますが、どうぞお聴きください」
梨央が涙ぐみながら綾香を見つめ、優しく微笑む。
綾香もまた梨央を見つめ、微笑みながら頷く。
…梨央は静かに美しいピアノの音色を奏で出した。
続いて、綾香が語りかけるように透明な、しかし温かみのある声で歌いだす…。
アヴェ・マリア
慈悲深き乙女よ
おお、聞き給え
乙女の祈りを…
綾香の美しい声はまるで広間にいる一人ひとりに恩寵を与えるように、透明なベールを掛けるごとくふんわりと広がり、優しく包み込む。
その稀有な美しい声に、梨央の繊細なピアノの調べが、寄り添う。
世にも美しく尊い時間と空間に、人々はひたすら酔いしれ、そして涙するのだった。
綾香の最後のフレーズが空に溶けこむ。
その余韻は、シャボン玉のように人々の間をたゆたい、そしてまるで心の中に溶け入るように消えていったのだ…。
「…やはり朱音の声によく似ている。でも歌唱力は朱音以上…いえ…そんな生易しいものではないわ…この子の才能は…計り知れないものがある…」
笑顔の中にも鋭い眼光で綾香を見つめていた。
隣の席の縣は
「…信じますよ。ゴッドマザーには才能を見抜く力がおありだから」
とそっと囁いた。
竹子はフッと笑い、縣を軽く睨む。
「年寄りを揶揄うもんじゃないよ。…ところで…梨央との婚約は解消したそうね?」
縣は苦笑する。
「人の痛い所を突くのは本当にお上手だ。…ええ、美しき薔薇姫をお護りする騎士に戻ったのですよ。…でも…これで良かったのです…」
「…そう…。貴方は良い人ね。そしてとても魅力的」
「ありがとうございます…。竹子様にそう言っていただけると、何だか報われます」
竹子は縣の手を可愛い孫にするように優しく撫でた。
広間はリサイタルのような様相を呈してきた。
皆、綾香の歌にすっかり魅了されている。
「…最後に、アヴェ・マリアを歌わせてください。…今日は私の亡くなった母を知る竹子様に思いがけない嬉しいお話を聞かせていただきました。…母はクリスチャンでした。母の葬式の時に教会で私はアヴェ・マリアを歌いました。あの日は…悲しくて辛かった。…でも今は…とても幸せな気持ちでアヴェ・マリアを歌いたいのです。…クラシックの歌唱練習はしたことがありません。全て自己流です。お聴き苦しい点もあるかと思いますが、どうぞお聴きください」
梨央が涙ぐみながら綾香を見つめ、優しく微笑む。
綾香もまた梨央を見つめ、微笑みながら頷く。
…梨央は静かに美しいピアノの音色を奏で出した。
続いて、綾香が語りかけるように透明な、しかし温かみのある声で歌いだす…。
アヴェ・マリア
慈悲深き乙女よ
おお、聞き給え
乙女の祈りを…
綾香の美しい声はまるで広間にいる一人ひとりに恩寵を与えるように、透明なベールを掛けるごとくふんわりと広がり、優しく包み込む。
その稀有な美しい声に、梨央の繊細なピアノの調べが、寄り添う。
世にも美しく尊い時間と空間に、人々はひたすら酔いしれ、そして涙するのだった。
綾香の最後のフレーズが空に溶けこむ。
その余韻は、シャボン玉のように人々の間をたゆたい、そしてまるで心の中に溶け入るように消えていったのだ…。

