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真珠浪漫物語
第15章 Under The Rose
その夜、梨央は矢も盾もたまらず、綾香の部屋を訪ねた。
「いらっしゃい、梨央。…どうしたの?そんな深刻な顔をして」
綾香は優しく笑いながら迎えてくれた。

…そう…。お姉様は、いつだって私にお優しい…。
梨央は綾香を黙って見つめる。
綾香は黒いシースルーのナイトドレスを身にまとっていた。
絹のそれは、
「未婚の貴族のお嬢様のお召し物にしては、いささか上品さに欠けるかと…」
と、ますみにやんわり注意されたが構わずオーダーしたものだ。
ますみはまだ、これを見る度にブツブツ言っているが、梨央は綾香にぴったりの大人の色気を醸し出している素晴らしいドレスだと思う。

綾香のミルクのように白くしっとりとした肌を引き立たせる漆黒のドレス…。
羽織るタイプの上着は袖口と裾がゆったりと広がり、エレガントなデザインである。
下の黒いキャミソールドレスは綾香の豊満な張りのあるバストをより魅力的に見せ、そこから続く豊かなヒップラインも大変に蠱惑的である。
シースルー素材なので、綾香の黒い小さな下着もともすれば透けて見えそうになり、梨央はそれを見る度に身体が熱くなる衝動にかられるのだ。

綾香は梨央を部屋に招き入れ、蓄音機のレコードに針を落とす。
「…Ms.D…知ってる?」
梨央は首を振る。
「ドイツ人の歌手なの。まだあんまり知られてないんだけど、私、この人大好きなんだ」
特定の人を綾香が熱く語るのを見るのは初めてで、梨央はこのドイツ人歌手に嫉妬すら覚える。
「…この人、若い頃から生活費を稼ぐために酒場で歌を歌ってたの。…フフ…私とちょっと境遇が似てるなあ…て、それで少しずつレコードを集めて聴いていたんだ」
「…そうなんですね…」
…私はまだお姉様のことを何も知らない…。
梨央は寂しく思った。
綾香はレコードに合わせて口ずさむ。
甘く切なく気怠げなドイツ語は、綾香に良く似合う。
「…きっとその内、世界中で大ヒットするよ」
…いつか、街灯りの側で会おう。
昔みたいに…


別れた恋人を思う歌だろうか…。
…恋人…
お姉様に、恋人はいたのだろうか…。
いたに決まっているわ…。
こんなにもお美しい方なんですもの…。

梨央は、レコードの声に合わせて口ずさむ綾香の美しい横顔を切なく見つめる。

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