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真珠浪漫物語
第15章 Under The Rose
蓄音機を眺めながら、懐かしそうな、切なそうな表情をする綾香を見ていると、途端に梨央は哀しくなり、不意に綾香に背を向け、涙を堪える。
梨央の様子がおかしいことに気づいた綾香は
「…梨央…?どうしたの?」
と、顔を覗き込む。
「…お姉様…あの…あのね…」
涙声になるのを必死で堪えながら、梨央は尋ねる。
「なに?梨央?」
「…お姉様には…かつて、恋人がいらしたのですよね…」
「…え…?」
綾香は一瞬戸惑う。
「…いらして当たり前ですよね。お姉様はこんなにお美しくて魅力的な方なんですもの…」
綾香は暫く黙っていたが、静かに答えた。
「…いたよ」
「…⁉︎」
予想していたとは言え、綾香本人の口からその事実を聞くと、動揺を隠せない。
「…18の年から2年付き合って別れた恋人がいた…」
綾香は穏やかな表情で答えた。
これ以上何も聞きたくないと思う気持ちと裏腹に、全てを知りたい気持ちと葛藤する梨央。
「…なぜ、お別れになったの…?」
「…その人、良いお家のお坊ちゃんでさ…。私と付き合っているのが両親に分かって、猛反対されて、無理やりドイツに留学させられたの…。で、それっきり…」
「…お会いになっていないのですか?」
「うん。…もうそれから3年も経つんだから…きっとあちらで結婚でもしたんじゃないかな…」
綾香の目が遠くを見つめる。

蓄音機はまだ、ドイツ人歌手の甘い歌を奏でている。
…いつか、街灯りの側で会おう
昔みたいに…


…ドイツにいる別れた恋人…
別れた恋人を思う歌…

…お姉様は、その方を思い出していらっしゃるの?
梨央の胸は切なさに張り裂けそうになる。

「…お姉様は…その方と…愛し合われたの…?」
綾香がはっとして梨央を見つめた。
そして梨央の涙を一杯溜めた美しい瞳から目を逸らさずに答える。

「…ええ…愛し合ったわ…身も心も…」
梨央は思わず、綾香から背を向け、我慢しきれずに嗚咽を漏らした。
すぐ様綾香が梨央を後ろから強く抱きしめる。
「ごめんね、梨央。でも…梨央に嘘はつきたくないから」
梨央は必死で首を振る。
「…いいんです…お姉様は悪くありません…私が勝手にお姉様の過去に嫉妬しているだけなんですから…」
「梨央、聞いて。私は確かにその人と昔、愛し合ったわ。…でもそれは昔の話よ。今は…」
綾香は梨央の顔を覗き込む。
「…貴方一人を愛している」

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