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真珠浪漫物語
第17章 昔みたいに…
…あの日…
今も忘れられない…。
あの雪の日…。
綾香は昔の記憶を辿るように、遠くを見つめる。
…三年前、綾香と当麻は恋人同士であった。
誰よりもお互いを深く求めあい、身も心も深く激しく愛し合っていた。
しかし、当時当麻は帝国大学医学部の医学生であり、江戸時代から将軍家の御典医を勤め、今は東京に大病院を経営する由緒正しき家柄の跡取り息子であった。
一方、綾香は浅草カフェの駆け出しの歌手。
二人の交際はやがて、当麻の両親の知るところとなり、猛反対されることになる。
分けても、頭脳明晰な上に美男子という理想の息子に育っていた当麻を溺愛する母親は、狂ったように綾香を目の敵にし、二人を必死で別れさせようと躍起になっていた。
耐えきれなくなった当麻は綾香を愛するあまり、家を出た。
医学書と身の周りの僅かなものだけを、鞄に詰め玄関を出ようとする当麻を母親が泣きながら追い縋る。
「望己さん!お待ちなさい!お母様を捨てるの⁉︎」
「お母様…、僕だってこんなことはしたくないんです。でも、綾香と別れさせられるくらいなら僕は家を出ます。当麻の家も捨てます。綾香がいないと僕は生きている価値がないんだ…。それくらい、綾香を愛しているのです」
母親は美しい顔を鬼のような形相に歪め、綾香への呪詛の言葉を吐く。
「…あの女狐ね…!あの賤しい女狐が望己さんを誑かしたのね!そうに決まっているわ!」
「…お母様…やめて下さい」
母親は当麻の腕を離そうとしない。尚も綾香を罵り続ける。
「あのいやらしい女狐が望己さんを色仕掛けで騙したのよ!…ねえ、貴方は騙されているのよ⁈あの賤しい女は貴方の地位や財産が目当てなのよ⁈目をお覚ましなさい!」
当麻は冷たく、母親の腕を振り解く。
「…お別れです。お母様。今までお世話になりました。僕は綾香と生きていきます」
「ぼ、坊っちゃま…!」
傍らの乳母が泣き崩れる母親を支えながらおろおろする。
「…ばあや…。お母様を頼みます。お父様には書斎の机にお手紙を置きました…。では、お元気で…」
「望己さん‼︎行かないで‼︎」
母親の悲鳴のような叫び声を聞きながら、当麻は身を切られるような思いで、家を後にした。
今も忘れられない…。
あの雪の日…。
綾香は昔の記憶を辿るように、遠くを見つめる。
…三年前、綾香と当麻は恋人同士であった。
誰よりもお互いを深く求めあい、身も心も深く激しく愛し合っていた。
しかし、当時当麻は帝国大学医学部の医学生であり、江戸時代から将軍家の御典医を勤め、今は東京に大病院を経営する由緒正しき家柄の跡取り息子であった。
一方、綾香は浅草カフェの駆け出しの歌手。
二人の交際はやがて、当麻の両親の知るところとなり、猛反対されることになる。
分けても、頭脳明晰な上に美男子という理想の息子に育っていた当麻を溺愛する母親は、狂ったように綾香を目の敵にし、二人を必死で別れさせようと躍起になっていた。
耐えきれなくなった当麻は綾香を愛するあまり、家を出た。
医学書と身の周りの僅かなものだけを、鞄に詰め玄関を出ようとする当麻を母親が泣きながら追い縋る。
「望己さん!お待ちなさい!お母様を捨てるの⁉︎」
「お母様…、僕だってこんなことはしたくないんです。でも、綾香と別れさせられるくらいなら僕は家を出ます。当麻の家も捨てます。綾香がいないと僕は生きている価値がないんだ…。それくらい、綾香を愛しているのです」
母親は美しい顔を鬼のような形相に歪め、綾香への呪詛の言葉を吐く。
「…あの女狐ね…!あの賤しい女狐が望己さんを誑かしたのね!そうに決まっているわ!」
「…お母様…やめて下さい」
母親は当麻の腕を離そうとしない。尚も綾香を罵り続ける。
「あのいやらしい女狐が望己さんを色仕掛けで騙したのよ!…ねえ、貴方は騙されているのよ⁈あの賤しい女は貴方の地位や財産が目当てなのよ⁈目をお覚ましなさい!」
当麻は冷たく、母親の腕を振り解く。
「…お別れです。お母様。今までお世話になりました。僕は綾香と生きていきます」
「ぼ、坊っちゃま…!」
傍らの乳母が泣き崩れる母親を支えながらおろおろする。
「…ばあや…。お母様を頼みます。お父様には書斎の机にお手紙を置きました…。では、お元気で…」
「望己さん‼︎行かないで‼︎」
母親の悲鳴のような叫び声を聞きながら、当麻は身を切られるような思いで、家を後にした。