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真珠浪漫物語
第17章 昔みたいに…
お金はなかったが、二人はいつも笑っていた。
給料日には名曲喫茶に行って、それぞれ一杯ずつの珈琲で何時間も粘り、蓄音機から流れる音楽を聴いて過ごした。
当麻も綾香も音楽が大好きだったからだ。
疲れが出た綾香はモーツアルトを聴きながら、当麻の肩にもたれかかり、眠ってしまうこともあった。
当麻はそんな綾香を見て、微笑みながら自分のコートを掛けてやり、肩を抱き寄せた。
たまに仕事が早く終わった後は、待ち合わせて銀ブラすることもあった。
買えるはずもないドレスや宝石を二人は無邪気にウィンドウ越しに見て楽しんだ。
お金がなくても少しも惨めではなかった。
二人はいつも一緒にいたからだ。
ふと、御木本の店の前に立ち止まり、ウィンドウを見つめる望己。
「…どうしたの?」
綾香は当麻の腕を取り、尋ねる。
当麻は指を指す。
「あの真珠の指輪…」
ショーウィンドウの中で、一際輝いている真珠の指輪…。
「…ああ、あれ?…綺麗だね」
綾香はうっとり見惚れて答える。
「…綾香に似合うと思うんだ」
「え?…私なんかにはもったいないよ」
綾香は首を振る。
当麻は綾香を真剣な表情で見つめる。
「…大学を卒業して、医師免許が取れたら…あの真珠の指輪を綾香に買って、プロポーズする…て決めているんだ」
はっと目を見張る綾香。
「…望己さん…」
「だからもう少し待ってね、綾香。今は何も買ってあげられなくて…ごめんね」
申し訳なさそうに言う当麻の顔が涙で滲んでよく見えない。
綾香は当麻に背を向け、涙を払う。
「…綾香?」
心配そうに顔を覗き込む当麻。
「…やめてよ…私は…望己さんがいてくれたら幸せなんだから…高い宝石なんていらないんだから…」
涙で言葉が続かない。
嬉し泣きなんて…どうしたらいいかわからない。
暫く困ったように佇んでいた当麻だが、不意に
「ちょっと待ってて、綾香」
と声をかけ、どこかに行ってしまった。
ほどなくして戻ってきたかと思うと、当麻の手には赤い薔薇が一本握られていた。露天の花屋で買ったらしい。
「これなら買ってあげられる」
そして、その薔薇を綾香の結った髪に挿し、眩しげに笑った。
「すごく綺麗だ…綾香…」
綾香は再び泣き出した。
酔っ払いが
「色男!別嬪さん泣かすなよ!」
と揶揄う。
当麻がおろおろと綾香の顔を覗き込む。
…幸せすぎて涙が出る事を、当麻は知らない。
給料日には名曲喫茶に行って、それぞれ一杯ずつの珈琲で何時間も粘り、蓄音機から流れる音楽を聴いて過ごした。
当麻も綾香も音楽が大好きだったからだ。
疲れが出た綾香はモーツアルトを聴きながら、当麻の肩にもたれかかり、眠ってしまうこともあった。
当麻はそんな綾香を見て、微笑みながら自分のコートを掛けてやり、肩を抱き寄せた。
たまに仕事が早く終わった後は、待ち合わせて銀ブラすることもあった。
買えるはずもないドレスや宝石を二人は無邪気にウィンドウ越しに見て楽しんだ。
お金がなくても少しも惨めではなかった。
二人はいつも一緒にいたからだ。
ふと、御木本の店の前に立ち止まり、ウィンドウを見つめる望己。
「…どうしたの?」
綾香は当麻の腕を取り、尋ねる。
当麻は指を指す。
「あの真珠の指輪…」
ショーウィンドウの中で、一際輝いている真珠の指輪…。
「…ああ、あれ?…綺麗だね」
綾香はうっとり見惚れて答える。
「…綾香に似合うと思うんだ」
「え?…私なんかにはもったいないよ」
綾香は首を振る。
当麻は綾香を真剣な表情で見つめる。
「…大学を卒業して、医師免許が取れたら…あの真珠の指輪を綾香に買って、プロポーズする…て決めているんだ」
はっと目を見張る綾香。
「…望己さん…」
「だからもう少し待ってね、綾香。今は何も買ってあげられなくて…ごめんね」
申し訳なさそうに言う当麻の顔が涙で滲んでよく見えない。
綾香は当麻に背を向け、涙を払う。
「…綾香?」
心配そうに顔を覗き込む当麻。
「…やめてよ…私は…望己さんがいてくれたら幸せなんだから…高い宝石なんていらないんだから…」
涙で言葉が続かない。
嬉し泣きなんて…どうしたらいいかわからない。
暫く困ったように佇んでいた当麻だが、不意に
「ちょっと待ってて、綾香」
と声をかけ、どこかに行ってしまった。
ほどなくして戻ってきたかと思うと、当麻の手には赤い薔薇が一本握られていた。露天の花屋で買ったらしい。
「これなら買ってあげられる」
そして、その薔薇を綾香の結った髪に挿し、眩しげに笑った。
「すごく綺麗だ…綾香…」
綾香は再び泣き出した。
酔っ払いが
「色男!別嬪さん泣かすなよ!」
と揶揄う。
当麻がおろおろと綾香の顔を覗き込む。
…幸せすぎて涙が出る事を、当麻は知らない。