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真珠浪漫物語
第17章 昔みたいに…
その夜、離れに食事を運んで来た乳母を捕まえ、当麻は必死に頼んだ。
「ばあや、頼む!一生のお願いだ!この手紙を綾香に届けてくれ!」
「…坊っちゃま…そのような大それたことを…」
怯える乳母に当麻は美しい顔に涙を滲ませ、縋る。
「僕は明日にはドイツ行きの船に乗せられてしまう。
あちらに行ってしまえば数年は帰ってこられない。ドイツに行く前にせめて一目でも綾香に逢いたい!」
「坊っちゃま…」
「ばあやに迷惑はかけない。手紙を綾香に渡してくれるだけでいい!…綾香が手切れ金なんて受け取る筈がない。お父様もお母様も僕に嘘をついているんだ。
…頼む、ばあや!この通りだ!」
頭を下げて頼む当麻に乳母は胸が詰まり、暫く考えてから小さく頷く。
「承知いたしました。…今まで我儘など一切仰らなかった坊っちゃまが、このように横車を押されるのは余程のことでしょう。…行ってまいります。
…けれど、お約束して下さいまし。お手紙をお渡しした暁には、どのような結果でも必ず、ドイツにいらっしゃると…。旦那様もああは仰っておいでですが、実は坊っちゃまのことを心配されていらっしゃるのです。…奥様は尚更です…。奥様にとって、坊っちゃまは命なのです。…どうか分かって差し上げて下さいまし」
生まれた時からずっと自分を慈しんで育ててくれた乳母に涙ながらに諭され、当麻は手を握りしめ、涙を流す。
「分かった。約束する。…ごめんね、ばあや」
乳母は、微笑みながら当麻の涙を拭いてやり、手紙を受け取り部屋を出た。

ふと、当麻は窓の外に目をやった。
「…雪か…」
今年、初めての雪が静かに降り始めていた…。


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