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真珠浪漫物語
第17章 昔みたいに…
翌日、欧州行きの豪華客船の甲板のデッキに当麻は佇み、見送りの客でごった返す、埠頭を眺めていた。
昨日からの雪はまだ止まず、船にも港にも降り注ぐ。
…昨夜遅くに帰宅した乳母から、綾香の伝言を聞き、当麻は顔を覆った。
…さよなら。
幸せでした。ありがとう…。
…綾香!
やっぱり君は、僕が思った通りの人だ。
勝ち気で、意地っ張りで…でも傷つき易く繊細で…
そして、誰よりも優しい…。
乳母がそっと呟く。
「…これは私の独り言でございます。…綾香さんは、手切れ金など受け取られてはおられませんでした…」
当麻は泣き笑いの表情を浮かべる。
「…知ってる…綾香は…そういう人だ…」
「…坊っちゃまは…良い方と恋をされましたね…」
そう優しく囁くと、一礼して部屋を出た。
…綾香…。
ごめんね。僕は君を幸せにしてあげられなかった…。
幸せにしてあげられるなんて、思い上がっていた…。
船が汽笛を鳴らし、出航の合図を知らせる。
色とりどりの紙テープが投げられ、銅鑼が鳴り、歓声に包まれる。
乳母に支えられ、見送りにきていた母が、当麻を見上げハンカチで目を押さえる。
当麻は小さく微笑む。
母を初めて憐れに…そして愛しく感じた。
もう甲板から離れようと、ふと埠頭を見渡した時…
当麻の目は釘付けになる。
倉庫の陰に身を潜めるようにして佇む1人の女…。
…綾香がそこにいた。
遠目だが、間違いようもない。間違えるはずもない。
僕が、初めて心から愛した女だ…。
当麻は手を振らなかった。
綾香もまた手を振らなかった。
二人はただひたすら、瞬きする間も惜しむかのようにお互いを見つめ続けた。
紙テープが次々に千切れる。
ゆっくりと遠ざかる客船。
当麻の姿もやがて小さく、点になり、消えて行った。
船が海原に隠れ見えなくなる。
見送り客がぽつりぽつりと帰り始める。
雪が激しくなり、空と海の境も真っ白に染め上げる。
…けれど、綾香はひたすら海を見つめ続ける。
さらさらと降り積もる雪…。
…望己さんのいる甲板にも積もっているかな…
雪は全てを覆いつくす。
何もかも…
…私の初めての恋も…
跡形もなく覆いつくしておくれ…
そうしたら、あの人を忘れられる…
綾香は口ずさむ。
哀しい恋のメロディーが雪に運ばれ、消えてゆく。
いつか、街灯りの側で会おう。
昔みたいに…
昨日からの雪はまだ止まず、船にも港にも降り注ぐ。
…昨夜遅くに帰宅した乳母から、綾香の伝言を聞き、当麻は顔を覆った。
…さよなら。
幸せでした。ありがとう…。
…綾香!
やっぱり君は、僕が思った通りの人だ。
勝ち気で、意地っ張りで…でも傷つき易く繊細で…
そして、誰よりも優しい…。
乳母がそっと呟く。
「…これは私の独り言でございます。…綾香さんは、手切れ金など受け取られてはおられませんでした…」
当麻は泣き笑いの表情を浮かべる。
「…知ってる…綾香は…そういう人だ…」
「…坊っちゃまは…良い方と恋をされましたね…」
そう優しく囁くと、一礼して部屋を出た。
…綾香…。
ごめんね。僕は君を幸せにしてあげられなかった…。
幸せにしてあげられるなんて、思い上がっていた…。
船が汽笛を鳴らし、出航の合図を知らせる。
色とりどりの紙テープが投げられ、銅鑼が鳴り、歓声に包まれる。
乳母に支えられ、見送りにきていた母が、当麻を見上げハンカチで目を押さえる。
当麻は小さく微笑む。
母を初めて憐れに…そして愛しく感じた。
もう甲板から離れようと、ふと埠頭を見渡した時…
当麻の目は釘付けになる。
倉庫の陰に身を潜めるようにして佇む1人の女…。
…綾香がそこにいた。
遠目だが、間違いようもない。間違えるはずもない。
僕が、初めて心から愛した女だ…。
当麻は手を振らなかった。
綾香もまた手を振らなかった。
二人はただひたすら、瞬きする間も惜しむかのようにお互いを見つめ続けた。
紙テープが次々に千切れる。
ゆっくりと遠ざかる客船。
当麻の姿もやがて小さく、点になり、消えて行った。
船が海原に隠れ見えなくなる。
見送り客がぽつりぽつりと帰り始める。
雪が激しくなり、空と海の境も真っ白に染め上げる。
…けれど、綾香はひたすら海を見つめ続ける。
さらさらと降り積もる雪…。
…望己さんのいる甲板にも積もっているかな…
雪は全てを覆いつくす。
何もかも…
…私の初めての恋も…
跡形もなく覆いつくしておくれ…
そうしたら、あの人を忘れられる…
綾香は口ずさむ。
哀しい恋のメロディーが雪に運ばれ、消えてゆく。
いつか、街灯りの側で会おう。
昔みたいに…