この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
真珠浪漫物語
第20章 運命の選択
梨央の部屋の窓から、メルセデスに乗り込もうとする綾香の姿が見える。
ベルベットの濃い臙脂色の上着とスカートに葡萄酒色の帽子を合わせた綾香は遠目でも匂うように美しく華やかだ。
窓辺で食い入るように見つめる梨央に気付いたのか、綾香がふと二階を見上げる。
梨央は慌ててレースのカーテンを閉めた。
「…お姉様…ごめんなさい…心が狭い梨央を許して…」
梨央は涙ぐむ。

夕方梨央は階下に降り、温室の隣にある金糸雀たちがいる鳥小屋に向った。
冬でも暖かいこの部屋はサンルームも兼ねていて、梨央が幼い頃からの遊び場だった。
病弱だった梨央は外で遊ぶことを禁止されていた。不憫に思った伯爵が慰めになれば…と、作った部屋である。

足を踏み入れると、梨央が雛から育てた金糸雀や文鳥が嬉しそうに賑やかに鳴き出す。
「みんな、元気そうね。良かったわ」
梨央は優しく声をかける。
そして、一羽の金糸雀を外に出した。
「…おいで…」
金糸雀は人懐こく、梨央の手に乗り綺麗な声で囀る。
「フフ…相変わらず綺麗な声だこと…」
梨央は金糸雀を優しく撫でる。
微笑んではいるが、それはどこか寂し気な微笑である。

月城はそんな梨央をサンルームの入り口でじっと見つめていた。
…まるで、以前の梨央様のようだ…。
綾香と出会う前の梨央は、屋敷に閉じ籠り、時折金糸雀や文鳥を相手に静かに遊ぶ姿がよく見られた。
その寂し気な様子がかつての梨央と重なって見えたのだ。
人の気配を感じて、梨央が振り返る。
…と、その弾みで、手の中の金糸雀がふいに飛び立ち、サンルームの入り口に向かい羽ばたいて行った。
「あ!だめ!お外に出たら!」
梨央が慌てて立ち上がる。
月城がすかさず金糸雀を捕まえ、手の中に保護し梨央に手渡す。
「はい、梨央様…」
「ありがとう、月城…」
梨央はほっとして金糸雀を受け取り、鳥小屋に戻す。
…鳥小屋に返され、囀る金糸雀を見つめ、独り言のように呟く。
「…この金糸雀は…私みたいね…」
「梨央様…?」
金網に白く華奢な指を差し入れ、金糸雀に指先を甘噛みさせる。
「…この温室を出たら決して生きてゆけない籠の鳥…美しい鳥籠だけが世界の全て…」
「梨央様…」
「…けれど、お姉様は違うわ…」
梨央はサンルームの窓から空を眩し気に見上げる。
「…あの大空にどこまでも羽ばたいていける自由な美しい鳥…狭い鳥籠は似合わない…」


/226ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ