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真珠浪漫物語
第20章 運命の選択
数日後の冬晴れの昼下がり。
梨央は一人、温室に篭り薔薇の花の手入れをしていた。
花の管理は専従の庭師がいるのだが、薔薇の手入れだけは梨央は人任せにはしなかった。
特に、白薔薇と赤薔薇はまるで自分の子供のように可愛がり、愛情をかけて育てていたのだ。
そんな梨央を庭師の大野は目尻を下げながら、花の手入れの仕方を優しく教えていた。
『こんなにお美しいお嬢様に愛される花は幸せですなあ…』
枯れ始めた葉を切り落としながら、梨央はふと鋏を持つ手を止めた。
…梨央のことは私が護るから…。
綾香に言われた言葉が胸に浮かぶ。
…嬉しいお言葉なのに…なぜ引っかかるのかしら…。
ぼんやり考え込んでいると…
「白薔薇の姫君が薔薇のお手入れとは…麗しき光景ですね」
明るく屈託のない声が聞こえ、梨央ははっとして顔を上げる。
温室の入り口の石畳みに縣が帽子を取りながら佇んでいた。
「…縣様…」
梨央は慌てて立ち上がる。
縣は優雅に会釈しながら近づき、梨央の白く美しい手を取り、そっと口付けをする。
「ご機嫌いかがですか?…間もなくデビュッタントですね。…綾香さんと梨央さんに心ばかりの贈り物をお持ちしました。月城に、梨央さんは温室にいらっしゃると伺い、ご挨拶に…」
と、にこやかに挨拶しながら梨央の顔を優しく覗きこむ。
「…どうしました?梨央さん。…なんだか浮かない顔をしておられますね」
「…え?…そんなこと…」
思わず俯いてしまった梨央に縣はベンチに座るように勧め、自分も隣に座りながらさりげなく切り出した。
「もしかして、綾香さんのイタリア行きのことで悩んでいらっしゃるのですか?」
梨央は驚く。
「なぜそれを…?」
「先日、夜会で竹子様にお会いした際に伺いました。綾香さんにイタリア留学をお勧めしたと…」
「…ええ…」
梨央は縣を見上げた。
「お姉様は、私も一緒にイタリアに来てほしいと言って下さったのです」
縣は温かく笑った。
「それは良かったではありませんか。…もっとも綾香さんは最初から梨央さんを残してイタリアへ行かれる気はなかったでしょうがね」
「…ええ…お姉様は、私を残して行ったら心配でたまらないから…と」
「そうでしょうね。綾香さんは誰より梨央さんを大切にされているのですから」
「…ええ。それは本当に嬉しいことなのです。…でも…」
梨央がふと憂いを帯びた表情を見せた。
梨央は一人、温室に篭り薔薇の花の手入れをしていた。
花の管理は専従の庭師がいるのだが、薔薇の手入れだけは梨央は人任せにはしなかった。
特に、白薔薇と赤薔薇はまるで自分の子供のように可愛がり、愛情をかけて育てていたのだ。
そんな梨央を庭師の大野は目尻を下げながら、花の手入れの仕方を優しく教えていた。
『こんなにお美しいお嬢様に愛される花は幸せですなあ…』
枯れ始めた葉を切り落としながら、梨央はふと鋏を持つ手を止めた。
…梨央のことは私が護るから…。
綾香に言われた言葉が胸に浮かぶ。
…嬉しいお言葉なのに…なぜ引っかかるのかしら…。
ぼんやり考え込んでいると…
「白薔薇の姫君が薔薇のお手入れとは…麗しき光景ですね」
明るく屈託のない声が聞こえ、梨央ははっとして顔を上げる。
温室の入り口の石畳みに縣が帽子を取りながら佇んでいた。
「…縣様…」
梨央は慌てて立ち上がる。
縣は優雅に会釈しながら近づき、梨央の白く美しい手を取り、そっと口付けをする。
「ご機嫌いかがですか?…間もなくデビュッタントですね。…綾香さんと梨央さんに心ばかりの贈り物をお持ちしました。月城に、梨央さんは温室にいらっしゃると伺い、ご挨拶に…」
と、にこやかに挨拶しながら梨央の顔を優しく覗きこむ。
「…どうしました?梨央さん。…なんだか浮かない顔をしておられますね」
「…え?…そんなこと…」
思わず俯いてしまった梨央に縣はベンチに座るように勧め、自分も隣に座りながらさりげなく切り出した。
「もしかして、綾香さんのイタリア行きのことで悩んでいらっしゃるのですか?」
梨央は驚く。
「なぜそれを…?」
「先日、夜会で竹子様にお会いした際に伺いました。綾香さんにイタリア留学をお勧めしたと…」
「…ええ…」
梨央は縣を見上げた。
「お姉様は、私も一緒にイタリアに来てほしいと言って下さったのです」
縣は温かく笑った。
「それは良かったではありませんか。…もっとも綾香さんは最初から梨央さんを残してイタリアへ行かれる気はなかったでしょうがね」
「…ええ…お姉様は、私を残して行ったら心配でたまらないから…と」
「そうでしょうね。綾香さんは誰より梨央さんを大切にされているのですから」
「…ええ。それは本当に嬉しいことなのです。…でも…」
梨央がふと憂いを帯びた表情を見せた。