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真珠浪漫物語
第2章 浅草オペラカフェ
…扉の向こうは煙草の紫煙と酒の匂いで蒸せ返るようだ。賑やかに談笑する声。
客は冷やかし半分の富裕層もいれば、熱心に通う庶民達もいる混沌としたカフェである。
梨央は店のボーイに導かれ、テーブルにつく。
そしてオーダーを取りに来たボーイに
「シャンパンを下さい」
と微笑む。
「…シャンパン…なんですか?それ」
怪訝そうな顔をするボーイ。
心得ている月城は
「珈琲を二つ」
と、オーダーしなおす。
きょとんとした顔をする梨央。
「…こちらのお店のシャンパンは売り切れなのですか?」
「お嬢様、この様な庶民の店にはシャンパンは置いていないのです。それに…アルコールはいけません。お身体に触ります」
不本意そうな梨央。
「…少しくらい大丈夫だわ」
「いいえ。先日、お誕生日のディナーでワインを召し上がられて翌日二日酔いになられていたではありませんか」
「…月城、私はもう18歳なのよ?立派な大人だわ」
頬を膨らませる梨央。
月城は一見冷たく見える端正な顔に優しい微笑みを浮かべる。
「…私にとってお嬢様はいくつになられてもお小さいままです」
そこに、艶やかな刺繍が施されたワインレッドのチャイナドレスを身にまとった眼を見張るように美しい一人の歌手が小さな舞台に上がる。
黒い絹糸のような漆黒の髪をやや無造作に結い上げ、真紅の薔薇を飾っている。
肌は高価な真珠のような色合い、形の良い眉、欧米人のような美しいくっきりとした二重瞼、どこか哀愁をたたえたようなしかし意志の強そうな大きな瞳、すんなりとした鼻、口角が上がった艶やかな唇は紅い紅で彩られている。
全体的に派手な装いと化粧なのに崩れた印象がない…むしろ凛とした品位を感じさせる美女である。
店内の客から歓声が上がる。
「綾香!」
「待ってました!」
梨央ははっと息を飲み、その歌手を見つめる。
「…お嬢様…あの方が…」
「ええ…あの方が…綾香さん…」
綾香と呼ばれた歌手は唇の端に妖艶な笑みを浮かべたまま気怠げに歌を歌いだす。
ややハスキーなどこか寂しげな、けれど詩情を感じさせる美しい声。
梨央の胸が締め付けられる。
両手をギュッと握りしめ、胸の前で震えを押さえる。
梨央の異変に気付き、月城が声をかける。
「…お嬢様…大丈夫ですか?」
梨央は答えない。
月城の声が聞こえていないかのように。
ただ舞台の綾香を熱い眼差しで見つめるのみだ。
客は冷やかし半分の富裕層もいれば、熱心に通う庶民達もいる混沌としたカフェである。
梨央は店のボーイに導かれ、テーブルにつく。
そしてオーダーを取りに来たボーイに
「シャンパンを下さい」
と微笑む。
「…シャンパン…なんですか?それ」
怪訝そうな顔をするボーイ。
心得ている月城は
「珈琲を二つ」
と、オーダーしなおす。
きょとんとした顔をする梨央。
「…こちらのお店のシャンパンは売り切れなのですか?」
「お嬢様、この様な庶民の店にはシャンパンは置いていないのです。それに…アルコールはいけません。お身体に触ります」
不本意そうな梨央。
「…少しくらい大丈夫だわ」
「いいえ。先日、お誕生日のディナーでワインを召し上がられて翌日二日酔いになられていたではありませんか」
「…月城、私はもう18歳なのよ?立派な大人だわ」
頬を膨らませる梨央。
月城は一見冷たく見える端正な顔に優しい微笑みを浮かべる。
「…私にとってお嬢様はいくつになられてもお小さいままです」
そこに、艶やかな刺繍が施されたワインレッドのチャイナドレスを身にまとった眼を見張るように美しい一人の歌手が小さな舞台に上がる。
黒い絹糸のような漆黒の髪をやや無造作に結い上げ、真紅の薔薇を飾っている。
肌は高価な真珠のような色合い、形の良い眉、欧米人のような美しいくっきりとした二重瞼、どこか哀愁をたたえたようなしかし意志の強そうな大きな瞳、すんなりとした鼻、口角が上がった艶やかな唇は紅い紅で彩られている。
全体的に派手な装いと化粧なのに崩れた印象がない…むしろ凛とした品位を感じさせる美女である。
店内の客から歓声が上がる。
「綾香!」
「待ってました!」
梨央ははっと息を飲み、その歌手を見つめる。
「…お嬢様…あの方が…」
「ええ…あの方が…綾香さん…」
綾香と呼ばれた歌手は唇の端に妖艶な笑みを浮かべたまま気怠げに歌を歌いだす。
ややハスキーなどこか寂しげな、けれど詩情を感じさせる美しい声。
梨央の胸が締め付けられる。
両手をギュッと握りしめ、胸の前で震えを押さえる。
梨央の異変に気付き、月城が声をかける。
「…お嬢様…大丈夫ですか?」
梨央は答えない。
月城の声が聞こえていないかのように。
ただ舞台の綾香を熱い眼差しで見つめるのみだ。