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真珠浪漫物語
第8章 メタモルフォーゼ
その夜。晩餐の時間の前に、綾香の部屋にメイドのすみれがドレスを捧げ持ち、入って来る。
すみれはお辞儀をすると
「綾香様、間もなくお食事の時間でございます。お召替えのドレスをお持ちいたしました」
と、告げた。
「え?晩御飯食べるのに着替えるの?」
驚く綾香にすみれは人の良い笑みを浮かべ
「はい。晩餐の際には女性はイブニングドレスと決まっております。こちらは旦那様がロンドンから送ってこられた梨央様のドレスですが、少し大きめのサイズだったので、まだお召しになっていないものなのです。先ほど梨央様がお持ちになり、ぜひ綾香様にお召しいただきたいと」
すみれがドレスを広げる。
肩紐は細いストラップの葡萄酒色のイブニングドレス。
シルエットはマーメイドラインで、大人っぽいデザインである。胸元やウエストから裾に向かって細かな模様やスワロフスキーの装飾が施されていて大変華やかなものだった。
「こんな素晴らしいドレス…いいのかな」
戸惑う綾香にすみれは
「お召しいただけましたら、梨央様がお喜びになられます。お姉様にお召しいただきたいと一生懸命ドレスルームに篭っておられましたから」
と微笑んだ。

梨央…。
綾香は笑った。
「分かった。着るよ」
「はい。それではお召替えと、御髪のセットをさせて頂きます。お支度部屋にどうぞ」
すみれが次の間に続くドアを開けた。
「…そんな部屋もあるのね…」
綾香は感心した。

梨央は自分の支度を終えると待ちきれないように、綾香の部屋に向かった。
…お姉様、私のドレスを気に入ってくださるかしら…。
胸が高鳴る。
「…お姉様、お支度できまし…」
そっとドアを開け、目に飛び込んできた光景に梨央は言葉をなくした。

そこには見たこともないような美しく優雅で気品に満ち、かつ妖艶な貴婦人が佇んでいたのだ。
「…お姉様…」
綾香は照れたように笑った。
「可笑しくない?似合ってる?」
綾香の髪は綺麗に結い上げられ、梨央がすみれに渡した真珠のティアラで飾られている。
お化粧は控えめだが、かえって綾香の稀有な美しさを際立て、その華やかで艶めいた美貌が輝いている。
ドレスはまるで誂えたように綾香に馴染み、そのまま夜会に向かっても遜色ないような美しさであった。

梨央は胸が締め付けられるような涙ぐみたくなるような感動を覚えた。
「…お姉様…お美しいです…本当に…」



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