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真珠浪漫物語
第8章 メタモルフォーゼ
月城は大階段の下で二人の令嬢の到着を待っていた。
…綾香様はきちんと正装されただろうか…。
あのチャイナドレスはいただけない。
まるで色街の女だ。
そう言えば、まだあのカフェで唄うなどとおっしゃっていたが、とんでもないことだ。
北白川伯爵令嬢がカフェで歌手など、末代までの恥さらしになってしまう。
早い内にお考えを改めていただかなくては…
などと思いを巡らしていると、大階段の上から声が聞こえた。

「…月城、お待たせしたかしら」
梨央の可憐な声だ。
「いいえ、お嬢様。お時間通りでございます…」
月城はにこやかに振り向き、その刹那目が釘付けになった。
「…綾香様…」
梨央と並んで、滑らかに優雅に階段を降りてくるその人…。
先ほどまで紅い安っぽいチャイナドレスで憎まれ口を叩いていた人物と同じと誰が思うだろうか。
綾香は、上品に髪を結い上げ、葡萄酒色の大人っぽいドレスを優雅に着こなし、メイクも上品で、月城が息を飲むほど美しく、また妖艶な貴婦人ぶりであった。
梨央も可憐で美しいが、綾香の美しさは、様々なものを醸し出す薫りを感じさせる大人びた美しさであった。
そしてそこに、侵し難い気品を感じずにはいられなかった。
自分を見つめる月城と眼が合った綾香は、ふっと笑い
「…よく化けたな、と思ってる?」
と、茶化した。
月城は綾香を見つめて呟いた。
「…いえ…ただただお美しいと思っております」
そこには今までの皮肉な口調は一切なかった。
綾香は意外そうに月城を見る。
真っ直ぐな眼差し。
「…そ、ありがと」
梨央は二人の間に流れる空気に僅かな違和感を感じ、一瞬、嫉妬めいた感情を覚えた。
だが、そんな気持ちを抱くのは間違っていると無意識に打ち消す。
そして無邪気に綾香の腕を引いた。
「お姉様、まいりましょう」
「うん、…お腹すいたわあ〜。…ねえ、鰻出るかな?」
「…鰻…ですか…多分、出ないかと…」
「残念!鰻、好きなんだけどなあ」
「今度、シェフに申しておきますわ」
「うん、鰻の蒲焼ね!大好物なの」
「うなぎのかばやき…ですね、覚えました!」
二人の他愛のない、しかし楽しげな会話を聞きながら、月城は誰にも見えないように小さく笑った。
そして、ダイニングルームへの扉を優雅に開くのだった。

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