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真珠浪漫物語
第11章 嵐の予感
その日の午後、綾香と梨央が庭の東屋でお茶を飲んでいると、ますみがやってきた。
「…梨央様、明日は縣様がお見えになります」
梨央は少し気が進まないように答える。
「…今朝、月城から聞いたわ」
「今、縣様から明日のご訪問の時に是非着ていただきたいというドレスが届きました。お試しいただき、お礼のお返事をお願いいたします」
「…そう…」
「縣様の遣いの方を待たせておりますので…」
梨央は諦めたように頷き、綾香を見つめる。
「…お姉様、ちょっと行ってまいります」
綾香は優しく梨央の髪を撫でる。
「行ってらっしゃい」
「…どこにもいらっしゃらないでね、お姉様」
不安げな梨央に
「…大丈夫、ここにいるよ」
と答え、そっと頬にキスをする。
梨央の顔が一瞬で輝いた。
そして名残惜し気に振り返りながら、メイドのすみれに付き添われ屋敷に戻ってゆく。

梨央の姿を見送りながら、綾香はますみに尋ねた。
「ねえ、縣さんて…誰?」
ますみは綾香のティーカップに新しいダージリンを注ぎながら答える。
「…縣様は恐れながら、梨央様の婚約者様でいらっしゃいます…」
「え〜⁉︎」
綾香は驚きの余り、テーブルのミルクピッチャーを倒してしまった。
ますみが素早く対応する。
「まあ、大変。ドレスがしみになってしまいますわ。私、布巾を取ってまいります。少しお待ち遊ばして下さいまし」
「あ、ごめん…」

ますみが去った後、
「…婚約者…梨央に…ふうん…」
面白くないような顔で考え込んでいると、庭の奥の門扉の外側から聞き覚えのある声がした。

「…綾香!綾香!」
思わず立ち上がり、声のする方に行ってみる。
青銅の鉄格子越しにいたのは…
「千!千じゃない!どうしたの⁉︎」
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