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真珠浪漫物語
第12章 美しき薔薇の番人
綾香は優雅に手を差し伸べた。
黒曜石の如く漆黒の大きな瞳はきらきらと輝き、真っ直ぐに縣を見つめている。
その瞳の奥には縣が普段接する淑女たちにはない強い獣性めいた光があった。
…この女性は、一筋縄ではいかない何かを持っている。
なぜか分からないが、綾香が発する異質な美しさに縣は強い違和感を抱いたのだ。
縣はそのような思いはおくびも見せず、にこやかに手を取り紳士的に綾香の手に口付けをする。
「…初めまして、綾香さん。縣と申します。お会いするのを楽しみにしておりました」
「私もですわ。…私の可愛い妹の大切な婚約者の貴方に…」
綾香はその魅惑的な唇の端に謎めいた笑みを浮かべる。
梨央の肩がびくりと震えた。
伏し目がちの梨央の表情は分からないが、レースの手袋に包まれたその華奢な手が小刻みに震えているのが見えた。
縣は穏やかな口調で
「これはこれは…姉上様のお眼鏡に叶うとよいのですが…」と笑った。
二人の間に不思議な緊張感が走る。
助け舟を出すように、月城が丁寧に一礼し、口を開く。
「…皆様、どうぞ中へ…。風が出てまいりましたので」
梨央は、慌てて笑みを作る。
「縣様、どうぞこちらへ。シェフが腕によりをかけて縣様のために特別メニューをご用意いたしましたの…お口に合えばよろしいのですが…」
縣は梨央と並んでホールに足を踏み入れる。
そして、梨央を見つめながら再び手を取り
「…私は梨央さんにお会いできたらそれだけで幸せなのですよ。…貴方といただけるなら、安いワインとパンだけでも最上のご馳走だ」
口付ける。
「…縣様…」
梨央はその長く繊細な睫毛を震わせる。
後ろに続く綾香が屈託無く明るく笑う。
「…縣様はロマンチストでいらっしゃるのね。…梨央さんはお幸せだわ。こんなにも縣様に愛されて」
縣は綾香を振り返り、優雅に一礼してみせる。
「お褒め頂き光栄です。姉上様」
梨央はこの緊張に耐えられずに俯きがちに歩みを進めた。
月城がダイニングに続く扉を開く。
ふと、月城と目が合う。
月城の目に梨央を励ますような温かさを感じ、梨央は小さく頷き、前を向いた。
黒曜石の如く漆黒の大きな瞳はきらきらと輝き、真っ直ぐに縣を見つめている。
その瞳の奥には縣が普段接する淑女たちにはない強い獣性めいた光があった。
…この女性は、一筋縄ではいかない何かを持っている。
なぜか分からないが、綾香が発する異質な美しさに縣は強い違和感を抱いたのだ。
縣はそのような思いはおくびも見せず、にこやかに手を取り紳士的に綾香の手に口付けをする。
「…初めまして、綾香さん。縣と申します。お会いするのを楽しみにしておりました」
「私もですわ。…私の可愛い妹の大切な婚約者の貴方に…」
綾香はその魅惑的な唇の端に謎めいた笑みを浮かべる。
梨央の肩がびくりと震えた。
伏し目がちの梨央の表情は分からないが、レースの手袋に包まれたその華奢な手が小刻みに震えているのが見えた。
縣は穏やかな口調で
「これはこれは…姉上様のお眼鏡に叶うとよいのですが…」と笑った。
二人の間に不思議な緊張感が走る。
助け舟を出すように、月城が丁寧に一礼し、口を開く。
「…皆様、どうぞ中へ…。風が出てまいりましたので」
梨央は、慌てて笑みを作る。
「縣様、どうぞこちらへ。シェフが腕によりをかけて縣様のために特別メニューをご用意いたしましたの…お口に合えばよろしいのですが…」
縣は梨央と並んでホールに足を踏み入れる。
そして、梨央を見つめながら再び手を取り
「…私は梨央さんにお会いできたらそれだけで幸せなのですよ。…貴方といただけるなら、安いワインとパンだけでも最上のご馳走だ」
口付ける。
「…縣様…」
梨央はその長く繊細な睫毛を震わせる。
後ろに続く綾香が屈託無く明るく笑う。
「…縣様はロマンチストでいらっしゃるのね。…梨央さんはお幸せだわ。こんなにも縣様に愛されて」
縣は綾香を振り返り、優雅に一礼してみせる。
「お褒め頂き光栄です。姉上様」
梨央はこの緊張に耐えられずに俯きがちに歩みを進めた。
月城がダイニングに続く扉を開く。
ふと、月城と目が合う。
月城の目に梨央を励ますような温かさを感じ、梨央は小さく頷き、前を向いた。