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第12章 美しき薔薇の番人

縣は驚きと言うより、静かにこの光景を諦観にも似た表情で見つめていた。
縣に気づいた梨央が、思わず綾香の腕の中でびくりと震えた。
「縣様…」
縣を見て何か訴えようとした梨央を綾香は無理やり自分の方に向け、顎を掴み、濃厚なキスを繰り返す。
「…んんっ…お姉様…あ…あ…だめ…」
縣に見られている羞恥に梨央は激しく身悶える。
綾香は、そんな梨央を決して解放せずに、更に激しく梨を攻めたてる。
綾香の手が梨央の薄い、しかし青い果実のように初々しい乳房をナイトドレス越しに愛撫し始める。
縣のはっと息を飲む声が聞こえた。
「…や…っ…お姉様…はずかし…」
すすり泣くように梨央が訴える。
だがその声はすでに欲情で濡れ、甘く掠れたような喘ぎ声に変わってゆく。
「…ああ…んっ…お姉様…」
綾香は唇を離すと、情欲が高まりつつある梨央に諭すように呟く。
「…さあ、選びなさい。縣さんか、私か…。私は貴方を誰かと共有する気はないわ」
梨央は瞼を閉じ、涙を流しながら言った。
「…ごめんなさい…縣様…私…お姉様を愛しているのです…だから、縣様とは結婚できません。…ごめんなさい…」
縣は努めて冷静になろうと自らに言い聞かせ、
「梨央さん…貴方と綾香さんは姉妹なのですよ？…そんな禁忌の関係が許されるとお思いですか？」
と語りかけた。
梨央は縣から目を離さずに答える。
「…誰に許されなくても良いのです…例え世界を敵に回しても…私はお姉様を愛しています…お姉様がいればなにもいらないのです…！」
「…そんな関係を伯爵が許すとお思いですか？梨央さん、私は梨央さんが大人になる日を辛抱強く待っていたのです。貴方が大人になり、ご自分の意思で私の元に来て下さる日を夢見ていました。だから無理強いはしたくなかった…本当は貴方をどんなに我がものにしたかったことか…」
梨央が辛そうに俯く。
「ごめんなさい…縣様…」
綾香が静かに口を挟む。
「…本当にそうかしら？」
「え？」
縣は眉をひそめる。
「貴方は本当に梨央を自分のものにしたかった？抱きたかった？」
「綾香さん！」
「…嘘よ。…貴方にとって梨央はこの温室の薔薇と同じ。安全で誰も手に触れられない場所で、ただずっと見つめていたかっただけ」
縣は声を荒げる。
「そんなことはありません！」