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声を忘れた歌姫 ~ トラワレノ キミ ~
第3章 話してごらん


「……っ」

「おはよう、リリア」


3階にあるピアノルーム。

流れるように曲を奏でていた彼女の指は、入り口に立つ青年の声でピタリと止まった。


「──ああ 逃げなくていいんだよ、大丈夫…。心配しなくても怒られないさ。だって君はちゃんと言い付けを守っているだろう?リリア」


振り向くより先に椅子から立ち上がり、奥の部屋へ逃げ込もうとしたリリアは呼び止められる。



「…ブレット氏との約束を破って、3階までやって来たのは僕のほうだからね。咎められるべきは、君じゃない」

「……?」

「だから平気さ。ほら…戻っておいで」


緊急時以外には3階に立ち入るなと言われているにもかかわらず、スミヤは堂々と彼女に会いに来たのだ。

奥のドアノブを掴んだまま迷っているリリアに、彼は優しい笑顔を見せて歩み寄った。



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