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声を忘れた歌姫 ~ トラワレノ キミ ~
第6章 報酬は、刹那的な温もりで

届かない言葉…届く必要のない言葉を残して、スミヤは部屋を出る。

指にはまだリリアの感触が──

さらさらと敷布に広がる豊かな髪
触れるたびに栗立つ繊細な肌
止まらない涙の温度と……熱い蜜。

それらを拭いさるかのように、彼は硬派な革の手袋をはめた。



家を出たスミヤはその合間にも着信の記録を確認して、渋々ではあるが折り返す。



──



「──…何?父さん」


家の前に止めていた車に乗り込み、エンジンを入れて田舎の夜道を走り出した。



「任務は ¨ 無事に ¨ 完了したよ。……僕は、まぁ…後処理?があったから遅れたけれど、今から帰る。

──…今回の件で父さんがどこまで知っていたのかは、この際だから聞かないことにするけれどね」



ポツポツと道を示す街灯の丸い灯りは

遠くにいくほど連なり一本の線になってゆく。



「…ん?ハルトが青バッジを?…へぇ…さすが早いね。このままいけば年度末には銀バッジかな。

──…で、兄さんは…図書館で昼寝の毎日、か。変わらないねぇ」




LGAの父と話しながら、くしゃりとスミヤの目元が笑う。


人前では決して見せない……そんな顔で。




「誰でもいいから、とっとと兄さんを外に連れ出してくれる相手が…さ、現れるのを願うよ」




そして彼は通話を止めてLGAへの到着時刻を確認。

その道のりの長さに辟易しつつ、車内に流すBGMを適当に選んだ。

無意識の選曲はジャズピアノ──。

その繊細で透き通る…水面( ミナモ )のような清らかな音色は

憐れで可憐なひとりの歌姫の姿と重なって、帰路につくスミヤの記憶を鮮やかに色付けた──。


















       「声を忘れた歌姫 ~トラワレノ キミ~」完
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