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わけありっ、SS集!
第1章 緋狐(ひぎつね)の宝玉

緋狐。名前の由来は真っ赤な体毛と、同じく緋色の宝石のような目。そしてもう一つ、額に埋まった赤い宝玉だった。緋狐は、美しいその姿形よりも額の宝玉に価値がある。とても高値(たかね)で売れるのだ。
だから少年も、緋狐を探していた。
宝玉を手に入れて母への薬代を工面するために。それが、母を救う唯一の手段だった。
それまで少年を見つめていた緋狐は、ふいに踵を返すと山の奥へと消えた。
「あ、ま、待って……っ」
せっかく見つけた獲物を、逃がすわけにはいかない。
少年は川に飛び込んだ。水の深さは膝くらいまでだ。流れはやや速いけれど幸い小さな川で、向こう岸まで渡るのにそう苦はない。懸命に狐を追いかけ、少年は川を横断した。
一度視界から消えた狐は、だけどすぐに見つかった。川から上がると数十歩ほど離れた場所で、動きを止めたまま再び少年に視線を向けていたのだ。
少年は全力で狐を追いかけた。緋狐はまた走り出す。
その距離は縮まることも離れることもなく、一定の距離を保ったままの追いかけっこは続く。
すでにふらふらであちこちの関節が痛みを伴っていたけれど、気力だけで緋狐に食らいついていた。

