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わけありっ、SS集!
第1章 緋狐(ひぎつね)の宝玉

明らかに走る速度は落ちているはずなのに、緋狐との距離は変わらない。さすがに妙だな、と思いはした。まるで少年のペースに合わせて逃げているようだ。おちょくられているのだろうか。
それでも、ここまできて逃がすわけにはいかなかった。擦り傷だらけの足と痛みだす肺に鞭打って、走る速度をまたあげる。
その時ふいに、緋狐の動きが止まった。目前に、大きな岩肌が立ちはだかったのだ。緋狐は逃げる方向を変えようと、スピードを一気に落とした。その瞬間を逃さず、少年はその小さな体に飛びついた。
両手に触れる柔らかな手応え。
「つか……まえた……っ」
掠れた声で叫んだ。
ようやく、幻の緋狐を捕まえた。これで母を救える。少年のやつれた顔が歓喜する。
激しく肩を上下させながら、すぐに額の宝玉に手を伸ばした。赤い、つるつるとした親指ほどの大きさの石だ。少しずつ、少しずつ指に力をこめていく。石はまったく外れる気配がなかった。
緋狐は暴れも鳴きもせず、緋色の大きな瞳で黙って少年の瞳を見つめているだけだ。

