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わけありっ、SS集!
第1章 緋狐(ひぎつね)の宝玉

「取れない……」

 少年の手から、ふいに力が抜ける。おもいきり力を入れれば、石を取ることはできるかもしれない。でもそれは、緋狐にとって痛みを伴う行為にはならないのだろうか。
 この宝玉は、狐の体の一部なのだ。人でいえば、きっと爪や歯と同じようなものだ。
 それを無理矢理引っこ抜かれたら……。
 少年はぶるりと身震いした。

「でも、これが無いと母さんは……」

 母を救う最後の頼みの綱が、この宝玉であることは事実だ。
 少年はかぶりを振った。指に力を込める。緋狐が、わずかに身をすくめたような気がした。
 けれども宝玉は取れない。額に完全に埋まっていた。
 少年は、近くにあった石を手に取った。片手と膝で緋狐を押さえ付け、もう片方の手で石を振り上げた。
 狐の額めがけて石を叩きつけようとした。

「……っ」

 だけど少年の手は、寸前のところでぴたりと動きを止めていた。

「やっぱり、できない……」

 吐き出した声が震える。少年はきつく瞼を閉じた。瞼の裏に、病に臥せった母の顔が浮かぶ。
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