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明治鬼恋慕
第7章 血の華

「ならどうして落方村で倒れていたんだ?」
「……少し困った事態になって。ある日、屯所で働く下女が子を孕んだんだ」
「…?」
「それが僕の子だと噂にされた。…フフ、冗談でもやめてほしいよね。そんな事、ある筈ないのに」
リュウが小さく笑う。
人間の話になると彼がよく使う、軽蔑のこもった笑みだった。
人間の女とまぐわるなんてあり得ないのに。
「色恋沙汰は屯所ではご法度( ゴハット )なんだ。僕は居場所を失って、…で、組を抜けて逃げてきた」
「そんなのってありかよ。お前の仕業だってその下女が言ったのか?」
「…噂の出所はわからなかった。まぁ僕はあまり愛想のいい隊士じゃなかったから。…誰も、異を唱える僕を信じなかったよ」
「…酷いな」
「……」
焔来と出会う前だから、当時のリュウは十三になったばかり。
まだ子供と言っていい歳だ。
それでも彼の美貌がその噂に拍車をかけたのだろう。下世話な話は広まりやすい。
「──…柳太郎」
「ん…?」
「それが僕の、昔の名前」
無念のまま逃げたのだろう当時の彼を、焔来が気の毒に思っていると…
ぽつりと、リュウが呟いた。

