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明治鬼恋慕
第8章 城下町
初めてだらけの光景に、寒さなんて忘れてしまう。
興味津々に焔来が見回す店頭には、股引( モモヒキ )姿の商人たちと、前掛けを身につけた丸髷の女たちが並んでいた。
「てん…? あれは何て読むんだ?」
「天麩羅( テンプラ )だよ。町人たちに人気の食べ物」
「腹が鳴りそうな匂いだなぁ」
蕎麦、寿司、かるめら焼き…。
一汁一菜が基本だった村での生活しか知らないせいで、焔来からすれば目が飛び出るほどの贅沢だ。
それに対してリュウはとくに驚きがない。
「お前はもともと都に住んでたんだったな。こういうのを食べたりしてたのか?」
「たまには、ね。──…すき、やき?…ふぅん、あれは初見だな」
「あそこに並べられてるのは何だ? 食い物か?」
「食べ物じゃない玉飾りだよ。人間の女が身に付ける」
「あ! 団子も売ってるな」
「食べたいの?」
焔来の目は落ち着くことがなくて、興奮した様子で隣のリュウを巻き込んでいる。