この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
明治鬼恋慕
第9章 紅粉屋

──もしくは魚屋に追われる野良猫か。
「焔来? 足元がふらついてるけど大丈夫かい」
「…ハァっ…誰のせいだと思ってんだよ」
前を行くリュウに心配されて、気だるさのぬけない焔来は反抗的に歯を剥き出した。
「変な顔してたら…ほら、危ないっ」
そんなことをしているから、足元の注意がおろそかになる。
瓦につま先を引っ掻けて転げそうになった焔来は、危うく体勢を立て直して、大人しくリュウの後を追った。
だがそれでも──焔来の注意は足元ではなく眼下の風景に注がれていた。
屋根の上から臨む街の景色は、道からのそれとまた違って面白い。
遠くまで連なる街区に目を細めれば、それらの道を駆け抜ける挟箱( ハサミバコ )を担いだ商人が、まるで蛇行する川を下る魚のようにも見えてきた。

