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明治鬼恋慕
第9章 紅粉屋
「盗みが目的ではないという、お前たちの言い分を信じてやろう」
“ さすがリュウ! 上手くいったな ”
容疑が晴れて、焔来は胸を撫で下ろす。
このまま蕃所に連れていかれようものなら、力づくで逃げ出さなければならないところだった。
そんなことになれば焔来とリュウはおたずね者。
警吏に追われることになる。それが一番やっかいなのだ。
「お前たち、旅の途中なら宿もないのだろう? 客間に泊まっていくがいい。準備をさせている」
「へ? あ、それは…」
「ありがたい。ですが、急ぎの身なので」
機嫌のいい又左衛門は疑ったわびとでも言うように、二人をもてなすと誘ってきた。
思わぬ申し入れに驚く焔来たちだが、長居するわけにもいかない。
リュウはあっさりと断りをいれた。
「僕たちはこれで失礼したいと思います」
「そうか…」
断ったリュウの顔を、又左衛門が残念そうに凝視している。
この色呆け爺、と、焔来はひそかに悪態をついていた。