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明治鬼恋慕
第10章 狂骸湯
「…焔来、僕をおいて…逃げるんだ…!」
「リュウっ…なんで…」
「大丈夫だから」
ひとりで逃げる気なんて欠片もない焔来に、リュウの説得が始まった。
いつ首をはねられてもおかしくない状態でありながら、震える唇で弧を描く。
「どうせこいつは僕を殺せない。殺したら…っ、価値が、なくなるから」
「……っ」
「だから逃げていい…急いで…!! 僕も必ず、後で君を追う…ッッ───ぐあっ!」
「リュウ!」
話し途中で、リュウの腹に蹴りが入れられた。
そこはちょうど斬られた位置で、呻いたリュウは再び痛々しく吐血する。
「…ちっくしょう…!! よくも、よくもッ……好き勝手しやがって…!!」
焔来は我慢の限界だった。
今すぐリュウの元に駆け寄って、この用心棒たちを蹴散らしたい。
そして彼を助け出した後、縁側で悠々と構えるこの男を殴り飛ばしたい。
だが揉み合っている最中にリュウの首が飛ばされないという確信が持てず、あと一歩が踏み出せない。