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明治鬼恋慕
第10章 狂骸湯
「飲まぬのか?」
器を取ろうとしない焔来を、又左衛門が急かす。
「いや違うな…。飲まぬのではなく " 飲めぬ " のであったなぁ」
「く……!!」
「いくら親友のためとは言え自分の命は投げ出せまいて」
「ふざけんな! なにが鬼殺し…っ、そんな得たいの知れない物を飲めるわけないだろ!」
「…私が嘘を言っていると?」
又左衛門が狂骸湯と呼ぶこれが、本物である証拠はない。
全く関係の無い毒を紛れこませている可能性だってある。
だがそのどちらにせよ焔来に逃げ道はなかった。
「疑うのは勝手だが。しかし…下手に長引かせると親友の首が飛ぶぞ」
「…やめろっ…それだけは…!」
「では大人しく飲むがいい。興が冷める前にな」
飲まないなら…リュウが死ぬ。
逃げ出そうにも後ろは滝壺で、しかし前に足を踏み出せど底無し沼が待ち構えるだけなのだ。