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明治鬼恋慕
第14章 決別
「ずっと昔の傷。…もう、痛みも何も感じない」
焔来が止めるのも聞かず、立ち上がったリュウは小屋の隅に置かれた火打ち石と火種箱を手に取り、作った元火を火鉢へと移し始めた。
付け木の炎が鉢の中の薪( マキ )に移り、パチパチと空気を弾く。
「昔って、いつのだよ」
「焔来と出会う前」
「俺と会う前?─って確か、お前は…」
──焔来と出会う…それ以前のリュウは都にいた。
柳太郎という若き隊士として、守護役の下で攘夷派の人間を抹殺しながら生きていたのだ。
「前に話したでしょう? 僕が都で何をしていたか。その組を脱け出して逃げる道中に、落方村に辿り着いたことも」
「なら…脱走した時に負った怪我がまだ残ってんのか?」
確かに二人が出会った日、村の橋に横たわるリュウは傷だらけだった。
焔来はあの時の光景を思い返しながら彼に問う。
「──いや」
「……?」
「この傷は、違う」
火鉢に向かうリュウは、少しずつ燃え広がる炎に視線を落としながら答えた。