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明治鬼恋慕
第17章 冬風
農村では収穫を終えた裸の田んぼが広がっている頃だろう。
昔の光景を懐かしみ、彼女は急ぎ足のままでふと目を細めた。
「──…また…この季節」
…彼女が故郷の村を離れたのは三年前、十九の歳。
名主である父親の紹介で酒造業を営む男のもとに嫁ぎ、この街に来たのだ。
十九で嫁ぐというのは、彼女のように貰い手が多い娘としては遅いほうだが…
遅れてしまったのには訳がある。
「あの時もちょうど、こんな風が吹いてたわ」
彼女にはずっと忘れられない人がいた。
一目で恋に落ち、結ばれたいと願い、だが恋心が報われることはなく…憎いとさえ思った相手。
もう二度と会えないとわかっていても尚、忘れることができない人。