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明治鬼恋慕
第17章 冬風

軒の下にまで出された棚の上には、赤や黒塗りの笄( コウガイ )、簪、櫛( クシ )。鮮やかな元結や、化粧に使う紅や白粉。丈長という紙の類いも置いてある。
女物だけとは限らず、男用の紙入れや煙草入れも売っていた。
基本的に装飾品から日用品まで幅広く扱う小間物屋は、ちょっとした掘り出し物を見付けられる楽しい場所だ。
「これとかどうだい? 安くするよ」
店主が勧めてきたのは小さな箱に収まった紅である。
買うことはできないが、豆腐の鍋を持ったまま彼女は店主の掌を覗いた。
いい色だ。
村の川沿いに咲いていたアザミの花を思い出す。
「旦那さまごめんなさい。とても綺麗だけれど今日は買えないわ」
「そりゃ残念だなぁ。ここんとこどうも、客足が悪くてね」
「寒くなってきたからかしら」
気の良さそうな店主が背を丸めて商品を棚に戻す。

