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明治鬼恋慕
第5章 出立
リュウは家財の裏に手を入れて、そこから一本の刀を取り出した。
黒い鞘に収まった長いそれを、腰に差す。
「まだ持ってたんだな、それ」
焔来がその刀を見たのは実に五年ぶり。
橋に倒れていたリュウが身に付けていた刀だが…とっくに捨てたのだと思っていた。
「必要になるかもしれないだろう?」
「そうだけど」
その刀こそがリュウがもともと武士の身分であったという証拠。
幕府と政府の争いにやたらと詳しいのも、彼の出生が理由なのかもしれない。
「焔来は何を持っていくの? 米俵か押し麦? 栗?──…あ、それとも釜?」
「…っ…食いもんばっかかよ」
「クスクス……釜は重いから勘弁してね」
「誰が持ってくか」
手際のいいリュウにからかわれて、焔来も荷造りを始めてみる。
だが改めて考えると何が必要なのかわからないものだ…。
迷いながら家を見渡すと、釜戸の横には朝に炊いた米で作った握り飯があった。
「…これだけ…でいいか」
「やっぱり食べ物じゃないか」
「うるせぇ」
この家にあるのは全て、孤児である自分へと名主の慈悲で与えられた物だ。
黙って逃げ出す身としては
どうにも持って行けられない。