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明治鬼恋慕
第6章 山越え
「焔来は川から出てきなよ。寒いだろう?」
「そうする。六匹ならもう十分だよな」
「こけないようにね」
「わかってる」
ザブザブと水面を蹴飛ばし、上機嫌の焔来が岸に戻っていく。
リュウのところまで来ると片足を持ち上げて岸にかけた。
「──ッ─ぉわ!」
「…あっ危ない!」
ところが足を滑らせ、身体の均衡を崩す。
すかさずリュウがその腕を掴んだ。
「…っ…ハァ、言ったそばから…!」
「わ、悪い」
ひっくりかえる寸前で難を逃れ、ひやひやとした顔で互いを見合う二人。
「…こんな時にびしょ濡れはやめてよ。風邪をひいたら大変だ」
「……だな…ハハっ」
「笑い事じゃない!」
「悪かったって」
掴んだ腕をそのままリュウが引き上げて、焔来は怒られながらも無事に岸へと上がった。
───
「着物の代えがないのはやっぱ不便だよなー」
そして
川のほとりで火を起こした二人は、腰を下ろして食事にありついていた。
火の中では串刺しになった獲物の魚たちが芳ばしい匂いを出している。
食べ頃を見計らい、その内の一匹を頬張りつつ焔来が文句をたれた。
「また雨が降ったらどうすればいい? 前みたいに濡れたまま過ごすしかないのか」
焼き魚の皮をバリバリと食べながら、隣のリュウに別の魚を差し出した。