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明治鬼恋慕
第6章 山越え

「そうだね…」
焔来から魚を受け取り、リュウが困った顔をする。
「そもそも、この薄装束のまま冬を迎えるのは厳しいかもしれない」
「いっきに寒くなってきたからな」
「二人とも単衣…それに、足袋( タビ )も持っていないし」
単衣というのは裏地のない一枚布の着物のこと。
冬の寒さに備えて、本来なら綿入れの着物が欲しいくらいなのだが。
「……どうだろう。この山を越えたところに確か街があったはずなんだけれど」
「まち?」
「そこで必要な物を揃えようか」
「まちって……あの、街か?」
リュウの提案に、焔来は目を輝かせる。
遠出の経験がない彼は街の風景をまだ知らない。
人で賑わい見世( ミセ )が建ち並ぶ…そんな「街」という場所は彼の憧れでもあった。

