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鮮やかな青
第1章 兄の存在
「あの方が、憎いか?」
突然響いた男の声に、私の涙は止められた。いつの間に部屋へ入ってきたのか、一つだけ付けた灯りに照らされたその顔は、意外な者だった。
「陶(すえ)様!」
陶 隆房(すえ たかふさ)。それは大内義隆の懐刀であり、最愛の武士だった男である。が、あくまでそれは過去の話。今の陶は、義隆に煙たがれる存在だった。
「何故に陶様がこのような場所へ……事前に言ってくださいましたら良かったのに」
「拙者とお主の兄、元春は義兄弟を誓った仲。ならば隆景、お主は拙者の義弟ではないか。兄が弟と顔を会わせるのに、使者や小姓を間に挟む必要などあるまい」
陶は腰を下ろし落ち着けると、私の顔色を窺う。そして瞳の奥へ、ちらりと嫉妬の炎を揺らした。
「あの方の相手は大変だったろう。初めてであろうが、容赦のなされないお方だから」
精悍な瞳と、すらりと通る鼻先。陶は私より年が上であるが、昔はさぞ美童であったと分かる顔をしている。つまりは、陶もまた義隆が抱いた男の一人。そして彼は、その中でも特に寵愛を受け出世した人間だった。
今、肉体関係があるとは考えにくい。だが瞳に映る炎を見る限り、その特別は今も続いているのかもしれない。