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鮮やかな青
第3章 兄の手
 
 一度落ち着いた心臓が、またざわめき始める。兄の目に映るのは、おそらくまだこの頃の私なのだろう。とものように純粋で、穢れの知らない、真っ白な。

 絵の中にいる虚像の私は、兄に向けた覚えのない笑みを浮かべている。あの人は……私を、どれだけ美化して見ているのだろうか。

「――戻ろうか。続きは、部屋でゆっくり話そう」

 胸が締め付けられるのは、子ども扱いされている事への憤りなのだろうか。渦巻く感情を押し込み、現実の私が足を踏み出せば、ともの小さな手が私の袴の裾を掴み、共に歩き出す。この子は、本当に曇りがない。昔の私は、兄と共に歩いた事などなかったのに。

 会えば気持ちが落ち着くかと思えば、ますます乱れるばかりである。私が抱くこの思いは、なんと呼べばいいのだろうか。何をすれば、平常に戻るのだろうか。

 いや、そもそも以前の私へ戻る道など、存在するのだろうか。時ばかりは、いくら願っても戻せないのだ。

 筆一本で描かれた絵には、色がない。いくら鮮明に書き残していても、兄から見た私も、庭を飛んでいた蝶も、何色なのかは分からないままだった。
 
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