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鮮やかな青
第3章 兄の手
「とにかく、準備もあるのでもう行きます。陶が不審な動きをしたら、正月より先に顔を合わせる事になるやもしれませんがね」
私が立ち上がっても、父は不満そうに睨むだけで、言葉はなかった。ならば陶が早く謀反を起こせばいいなどと言い出したら、どうしようかとも思ったが。
まだ、陶に動かれては不都合だ。毛利全体で、準備が固まっていない。しかし時を動かすのは、後は陶の心次第である。覚悟だけは、定めておかなければならなかった。
帰り支度のために部屋へ戻れば、間もなく襖が開く。ともが様子を見に来たのかと思ったが、隙間から顔を覗かせるのは兄だった。
「隆景、ちょっといいかな」
元春兄上のように、無遠慮に入ってきたって構わないのに。兄は、どうしてこう妙なところに気を遣うのか。他人のような扱いに苛つき、返事はつい冷めたものになってしまった。
「駄目です、と言えば諦めて戻るのですか?」
「えっ、駄目……かな」
「私は姉上が襲来する前に、帰らなければならないんです。邪魔するだけなら、戻ってください」
「襲来って……五龍も、悪気がある訳じゃないんだよ。お前は大人しくて聞き分けのいい子だから、つい遠慮を忘れるんだろう」