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鮮やかな青
第3章 兄の手
 
 兄は溜め息をつくと、父に似たつり目を少しだけ厳しくする。いつも寛大だった兄の変化に、私の胸が騒ぐ。この人は、怒らせたらどうなるのかと。

「お前が我が儘を通せば、その分多くの人間に迷惑が掛かるんだよ。空いている土地があるなら、そこでいいじゃないか」

 僅かだが、兄の声に怒気が混じっている。私が無視して片耳を塞げば、兄の眉間に明らかな皺が寄った。

「隆景」

「姉上の我が儘はいつも聞くのですから、私の我が儘を聞いてくださるのも道理ではないですか」

「五龍とお前は違うだろう。姫を持ち出しても、道理は通らないぞ」

「ならば、屋敷なんていりません。私は帰りますから、下がってください」

 兄の白い肌に、かっと赤みが差す。初めて聞く兄の怒鳴り声は、思う以上に張りがあった。

「隆景、いい加減にしなさい!」

 その気迫は、元春兄上に比べれば弱い。むしろ姉上よりも弱いかもしれない。だが、ここまで怒るのは、私が無用な意地を張っているからだ。自分の思う通りにならないから怒る兄上や姉上とは違う。この怒りは、聞いていて、気持ちがいい。
 
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