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鮮やかな青
第1章 兄の存在
 
 私と兄は、十も歳が離れている。それ故兄が帰ってきたその時、私は自分に隆元という名の兄がいる事をすっかり忘れていた。

 大内家から戴いたのか、兄の着る着物は上等なものだった。鮮やかな青は、今もはっきり目に焼き付いている。そしてそれが、私の知る日常とはあまりにかけ離れていて怖かったのだ。

 私は、兄の手を取らなかった。生まれた時から側にいるもう一人の兄、元春兄上の後ろに隠れて、兄を見なかった事にした。

 その後兄がどうしたかは、覚えていない。幼い私にとって重要だったのは、その後の兄よりも、元春兄上に遊んでもらって楽しかった記憶だったようだ。そしてそれ以降も、兄の記憶は少ない。父、元就の世継ぎである兄は、幼い私に構うほど暇な人間ではなかったのだ。

 私が知っている兄とは、これが全てである。私にとって兄とは、謀略に優れた父のように人を欺くような人間ではなく、また勇猛な元春兄上のように頑強な男でもない。穏やかな笑みをいつも浮かべた、気の抜ける男だった。

 あの穏やかで静かな兄が、身を貫く衝撃を快楽と喜び喘いだと、義隆は言う。嘘を吐く理由はない、きっとそれは真実なのだろう。
 
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