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鮮やかな青
第4章 激動の年
乃美殿が送った書状への返信は、思う以上に早かったようだ。乃美殿はすぐに登城すると私にそれを渡し、腕を組み唸った。
「隆元様のお考えの真意が、拙者には理解出来ませんな。これで本当に、酒師が首を縦に振るのでしょうか?」
兄からの手紙には、私の想定していた交渉とはまるで違う内容が書かれていた。
「酒を頼むなら、今年は今までの酒師に半分、新たな酒師に半分頼むべき。そして依頼する酒の量を半分に減らした代わりに、一樽の値段をもう少し上げる。乃美殿がまだ直接酒師と顔を合わせて交渉していないなら、すぐに自ら赴くべし――ですか」
「二人の酒師に半分ずつで頼んだりすれば、双方が不快にならないでしょうか。どちらからも蹴られる、などとなれば、宴自体が危うくなります」
「いや……正月の宴は、酒師にとって大きな仕事です。話を蹴る前に、もう半分の仕事も奪おうと切磋琢磨するでしょう。かえって、活性化に繋がるやもしれません」
それだけではない。今まで頼んできた酒師を突然全て切るより、競争に負けたのだと思わせる方が恨みを買わずに済むだろう。商売は義理だけで成り立つものではない。より良いものを見つければ乗り換えるのも道理ではあるが、なるべく穏便に済まされるならその方がいいだろう。